SILKの研究
Jan 8.2021

オープンイノベーション2.0 │ 井上 良子

SILKの名称にも含まれている「イノベーション」をめぐる議論や学説はあらゆる分野にわたっており、その内容は社会の変化に伴い変遷しています。そんな中、主に経済や企業活動においては、事業を「外部化=オープン」にすることでイノベーションを創出しようとする動きが広がっています。
オープンイノベーションが生まれた背景とその変遷をご説明した上で、次の100年を創っていく市民が主役の「オープンイノベーション2.0」について、事例とともに紐解いていきます。

オープンイノベーション2.0 │ 井上 良子

↑「オープンイノベーション2.0」のモデル図(出所:欧州共同体の「オープンイノベーション2.0」白書)

[目次]
1. オープンイノベーションの背景と変遷
2. オープンイノベーション2.0の特徴
3. 市民が主役のイノベーション創発
4. さいごに

1. オープンイノベーションの背景と変遷

日本では「イノベーション」が「技術革新」と訳されることが多かったため、イノベーションという言葉から、新製品や新技術の開発による変化がイメージされがちです。しかし、本来の意味でのイノベーションは、「新しいものを取り入れる」「既存のものを変える」ということ。政治、経済、教育、芸術などあらゆる分野に存在します。近年、経済システムや企業活動に関わる領域では、事業の価値そのものを新たにデザインし、社内外の関係性の中で共に創造する「共創」の概念が広がっています。それに伴い、技術のみならず、人材やアイデア、マインド、知的財産、研究、市場の領域でもイノベーションが語られるようになった今、「オープンイノベーション」のコンセプトが世界中で注目を集めています。

●なぜオープンイノベーションが必要なのか

もともと経済システムにおけるイノベーションは、基礎研究所を社内にもち、技術開発から生産まで一貫して自前で行うクローズドなものが主流で、一組織内だけで創出されるものと考えられてきました。しかし、2000年代に入って、研究開発効率の向上や新規事業の創出を目的にした企業間コラボレーションによるイノベーションが提唱されるようになってきました。企業内部と外部の技術・知識・アイデアを有機的に結びつけることでイノベーションを創出する考え方であり、これを現在では「オープンイノベーション1.0(OI1.0)」と位置付けています。

イノベーションのオープン化が広く求められるようになった背景には、主には経営環境の変化が挙げられます。VUCAと呼ばれる不確定な時代になり、企業を取り巻く社会環境も大きく変化し、自前主義によって新たな価値を生み出すことがより困難になりました。科学技術が進展するとともに分野ごとに専門化が進み、企業が必要とする知識や情報の基盤が広くなったこと、市場の変化に伴い自社にある既存の技術や知識を超えた製品・サービスを提供する必要性が増大したことの2点が、変化の主な要因として指摘されています。

●日本におけるオープンイノベーションの広がり

2003年に「オープンイノベーション」のコンセプトが提唱されて以来、先進的な事例は海外企業のものがほとんどでした。そんな中、一部の日本企業は積極的にオープンイノベーションを企業活動に取り入れ始め、経済産業省や文部科学省も高い関心を寄せています。

オープンイノベーションの議論が始まった当初は、基本的には企業活動のみに焦点が当てられ、新規事業の創出、既存事業の収益向上、研究開発のスピードアップといった企業間相互の利害関係を満たすWin-Win関係の構築が話題の中心でした。これまで行われてきた提携や外注、日本企業で多く見られた系列関係のような契約の枠内に限定された連携とは異なり、知識のやりとりにより重点を置いた連携のあり方です。

さらに、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の広がりに伴い、グローバル課題である気候変動、少子高齢化、食糧危機等の社会課題をテーマに取り組むイノベーションが増加しています。日本でもSDGsの達成をイノベーションの機会として捉え、企業の技術やノウハウにより社会課題の解決を目指すためのオープンな対話や実験の場も出現しています。

2. オープンイノベーション2.0の特徴

2010年代にヨーロッパで提唱されるようになったのが、「オープンイノベーション2.0(OI2.0)」です。欧州では、成長戦略Europe 2020の主要施策としてInnovation Unionを掲げています。雇用創出や生産性向上を目的とした政策の一環として、欧州を持続可能で包括的な経済地域と捉え、2020年までに「イノベーションバリューチェーン」を根付かせることを目標としています。それに伴い、イノベーションを生み出すためのアプローチも、従来の産官学連携モデルから、アイデア創出→導入→社会実装というプロセスが重要視されるモデルへと変わりました。そこで着目すべきなのは、ユーザー・市民が主要なプレーヤーと位置付けられている点です。

これまでユーザーや市民は、イノベーション創出プロセスにおいて調査や研究の対象になることはあっても、主体としては位置付けられませんでした。OI2.0では、行政、大学などの研究機関、企業による従来の産学官連携モデルを脱却し、ユーザー発のイノベーションアイデアや、ユーザーとの相互フィードバックが重要視されているのです。

出典:欧州委員会「Open Innovation 2.0 creating ecosystems!」

●オープンイノベーション1.0との違い

OI1.0では企業活動に焦点が当てられ、研究開発効率の向上や新規事業の創出を目的としていたのに対して、OI2.0では「社会的共通課題の解決」が目的に掲げられています。連携のあり方も、企業同士の1対1の関係性に基づくものから「cross-organisational(組織横断型)」なイノベーションへと変化しました。さらに、企業だけではなく大学や研究機関、政府、自治体、市民、ユーザーなど多様な関係者が連携・共創する循環型の「エコシステム」を構築する、多層的なアプローチに発展しているのが特徴です。


出典:欧州委員会「Open Innovation 2.0 Yearbook 2013」


出典:NEDO「オープンイノベーション白書」

●市民・ユーザーの参画方法

市民・ユーザーがイノベーション創出のプロセスに参画する例としては、例えば製品開発プロセスや製品ライフサイクルの各フェーズに消費者が参画し、ユーザーのニーズを革新的な製品開発のために活用するCo-creationの取り組みなどが挙げられています。また、Open Innovation 2.0 Yearbookにも取り上げられている市民・ユーザー参加型の共創活動「リビングラボ」は、とくに北欧で2000年頃から活発になっており、注目を集めています。

従来型の開発段階におけるユーザーインタビューや試供品の提供は、あくまでも企業側が主体でした。一方リビングラボでは、市民・ユーザーが製品やサービスの企画、開発、評価、改善の各フェーズに参画し、意見やアイデアを出すだけでなく、主体として実際に継続的な活動を行う点に特徴があります。活動の領域を見ると、企業が新製品や新サービスの開発につなげるというよりは、高齢化社会における福祉の問題や障がいのある方の雇用など、従来行政が担当していた地域の課題が増えてきています。行政側は、解決プロセスに市民が参加することで、これまでにないアイデアを生み出していくことを目的としています。

3. 市民が主役のイノベーション創発

多様な関係者が社会的な共通課題の解決という目的のもとに集まり、異なる価値を提供し合うことでイノベーションを生み出していくOI2.0において、主要な主体として市民が位置付けられたこと。そのことがもつ意味として何より重要なのは、社会課題の解決や社会課題を生まない仕組みをデザインするプロセスに、「生活者の視点」が加わるということです。

例えば、新しいまちづくりを考える場面。行政や民間企業の視点でスマートな都市計画を策定し、エネルギー、水、交通システム等のインフラ面で画期的なアイデアが出てきたとしても、利用する側の高齢の方・障がいのある方の視点や声が反映されていなければ、真に暮らしやすい街にはなりません。部分最適ではなく、複数の分野を同時に考慮した包括的な最適化が実現される必要があります。

その意味で、OI2.0で求められている市民の参画とは、市民が生活の中で得た深い洞察や意見を持ち込むこと調和を図ることであり、市民の意見を他のプレーヤーの意見と対等の価値を持ったものとして受け止めることが大切になってきます。

事例紹介① 新大宮広場

最近2周年を迎えた新大宮広場は、商店街にある100坪の空き地を活用するプロジェクトです。土地の所有者の呼びかけに呼応した地域住民、建築家、企業、大学教授などが結集し、空き地を芝生やキッチンを備えたレンタルスペースに生まれ変わらせました。専門家だけでなく、全員がまずは地域の住民であるベースをもった上で、それぞれの得意分野を活かして、地域の「みんながつくる新たな居場所。」が誕生したのです。

「新大宮広場」初期の構想モデル

事例紹介② 祇園祭ごみゼロ大作戦

「祇園祭ごみゼロ大作戦」は、来場者数が約50万人にものぼる祇園祭で、毎年課題となっていた使い捨て食器をリユース食器に切り替える活動です。日本初・世界初の取り組みとして2014年にスタートし、排出される60トンもの可燃ごみを半減させました。

行政や賛同企業を巻き込みながら、NPO法人やボランティアとして関わる市民により、京都議定書策定の地から発信されるこの取り組み。祇園祭の屋台文化を環境配慮型に変えるだけでなく、全国の祭りや市民のライフスタイルも大きく変えるきっかけになっています。さらに、観光と共存する持続可能なまちづくりの在り方を考え実践することにもつながる、多面的なインパクトをもっています。

温暖化ガスや海洋プラスチックごみ対策が、国際的な問題になっています。グローバルな社会課題を、自分たちが暮らすローカルな日常生活での活動単位に落とし込み、持続的な活動として実践することは、市民が主役のOI2.0にとって大事な要素です。

多面的なインパクトをもつ「祇園祭ごみゼロ大作戦」

市民のスタンスとしても、行政や企業に対して地域の課題を解決する策を一方的に求めるのではなく、自らもイノベーションを創発する主体としての意識と行動をもつことが大事です。単に生活者の意見を伝えるという姿勢だけでは、イノベーションは起こりません。自ら未来を志向する自立的な姿勢をもち、実際に多様なステークホルダーと共感し合える「共通の未来像・社会像」を描くことで、はじめてイノベーションが起こるのです。

目に見える課題を解決するだけに止まらず、こういう社会 ・未来が欲しい、創っていきたいという意思を持つこと。他人任せではない、自分事としての未来を描くこと。そこに、イノベーションを創発する主体としての第一歩があります。

事例紹介③ 一般社団法人my turn

個性が輝くmy turnチーム

SILKのコンシェルジュが独立して起業した一般社団法人my turnは、「子育て中のお母さんを中心に、家族、地域、企業がWell-beingになる社会」を共通の未来像として描いたことで、自らが欲しい未来・社会を手繰り寄せたケース。既にある組織での立場や役割に自分を当てはめるのではなく、それぞれの個性が輝き自分を表現できる場をつくる取り組みです。自己表現し合う仲間や外部の人との出会いによって各自の役割を果たすことに繋がり、創発が連鎖する豊かな未来が紡がれていきます。

4. さいごに

生活者たる市民が主役のオープンイノベーション2.0は、集まったあらゆる個人(組織に所属していたとしても、地域に暮らす個人として)が、自己実現と役割を果たすことを通じてともに学び成長していく場なのです。中心には、主体的に描いた共通の未来像があります。その実現のためには、自分自身がどのように生きたいのか、どういう社会を創りたいのか、といった生き方や価値観を、私たち一人ひとりが自分事としてデザインする未来志向が鍵となります。

ソーシャルイノベーションは、経済だけが中心に置かれ過度な率性や合理性を追い求めるのではなく、人間の幸福と公共の利益、地球環境とのバランスを考慮した持続可能な仕組みを追求する中で、初めて実現します。SILKという個性が集まる場を使って、地域の事業者や生活者が自発的に構想や事業を展開し、それを支援する私たち自身も未来をデザインしながら、ソーシャルイノベーションの文化を共に紡いでいきたいと思います。


 


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photo:井上 良子|イノベーション・コーディネーター
井上 良子|イノベーション・コーディネーター
イノベーション・コーディネーター
Impact Hub Kyotoプロジェクト・マネージャー
RELEASE;プロジェクト・コーディネーター/リサーチャー
福岡市出身。九州大学法学部/法科大学院修了。国際人権分野の法律家を目指して司法試験浪人中にアジア各地で出会った社会起業家やソーシャル・イノベーションの動きにインスパイアされ、直感的に進路を変更。九州大学ソーシャル・ビジネス研究センターで7年間、ソーシャル・ビジネスの普及・促進、創出支援、研究・教育に従事。ムハマドユヌス博士やグラミングループ、海外の教育機関等との連携を進める。組織やセクターを越えた成長への伴走を軸に2017年からはNPO法人クロスフィールズで留職プログラムやフィールドスタディ事業を担当。日本の先人たちの文化や知恵が蓄積された京都から”四方よし”のビジネスやソーシャル・イノベーションを発信しアジア・グローバルとつなげていきたい、と2020年4月よりSILKに参画(非常勤で現職)。

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