SILKの研究
Sep 1.2020

京都がイノベーションのまちであり続けた理由│SILK所長 大室 悦賀│連続インタビュー「価値観と関係性が紡ぎ続ける経済圏」

京都のまちと地域企業のあり方を紐解くインタビュー企画「価値観と関係性が紡ぎ続ける経済圏」。研究者3名と経営者3名に、1000年を超える京都の歴史と未来への姿勢について、お話を伺いました。第1回は、京都市ソーシャルイノベーション研究所 所長 大室 悦賀が「京都がイノベーションのまちであり続けた理由」をお話しします。

モデレーター:一般社団法人リリース 桜井 肖典さん

京都がイノベーションのまちであり続けた理由│SILK所長 大室 悦賀│連続インタビュー「価値観と関係性が紡ぎ続ける経済圏」

[目次]
1. 「いけず」の曖昧さが生む多様性
2. お金に換えられない価値を捉える
3. 合理性と非合理性を併せ持つまち、京都
4. さいごに

1. 「いけず」の曖昧さが生む多様性

──京都は、2019年に日本経済新聞の「全国市区・サステナブル度・SDGs先進度調査」で1位に選ばれました。794年の平安京遷都から1200年以上持続してきたこのまちには、地域の持続可能性を考えるヒントがたくさんあると思います。大室先生は、京都を京都たらしめている要素はどこにあるとお考えですか?

京都人の「いけず」なあり方が、まちの多様性や柔軟性のベースにあると思います。お茶漬けを勧められたら帰らなければいけないという話が有名ですが、「いけず」の例として、言葉通りでない裏の意味を持つ言い回しがよく挙げられます。でも、そこには相手が違う行動を選べる余白がありますよね。言葉通りに受け取ることもできるので、お茶漬けを食べちゃって帰らない人がいてもいいわけです。お茶漬けを出した人が相手の行動をどう見るかによって捉え方が変わるので、答えが一つではない。そこが重要です。

「自己家畜化」という人類学の概念があります。大まかに言うと、自分たちでルールや規範を作って、“べき論”に縛られて生きているということなのですが、世界の中で最も自己家畜化が進んでいる国は日本だと言われています。京都にもそういう面はあるのですが、そこに「いけず」が加わることで、うまい具合に余白が生まれます。

最近は特に、学生も社会人も、わかりやすいこと、答えが明確であることを求める人が多いですよね。だからハウツー本が売れるんですけど、京都はちょっと特殊で、イレギュラーなことを楽しめる風土があるように感じます。歴史的にイレギュラーなことだらけだったからなのかな。応仁の乱があり、明治維新で首都の移転があり、常に不安定な状態で歴史を刻んできているので、柔軟にならざるを得なかったのでしょう。人間は原因と結果を結びつけたがる生き物なのですが、必ずしも結びつかないこともあります。因果関係はわからないけれど、なんかそうなっちゃう。そういうことを面白いと捉えられる、独特の空気感がここにはあるんです。

排他的だと言われることもある京都ですが、実は、外の人を受け入れるのはすごく上手です。京都の経営者として有名な堀場さん(株式会社堀場製作所)や稲盛さん(京セラ株式会社)、永守さん(日本電産株式会社)も、出身は京都ではありません。僕も京都で育った人間ではないけれど、京都市ソーシャルイノベーション研究所の所長として立ち上げから関わらせてもらっています。

2. お金に換えられない価値を捉える

──京都では、企業が貨幣価値だけで評価されませんよね。美意識や哲学を問う姿勢があるように思います。

そうですね。このまちでは長く続いていることが大きな価値になるので、昔からビジネスの持続可能性への意識が根付いています。そのためにはファンを増やさないといけないから、ステークホルダーにも配慮せざるを得ない。貨幣経済の中にあっても、京都の企業は、持っている価値を必ずしも貨幣に換えないんですよ。そこが面白いんです。売上や利益を考えることから事業がスタートするんじゃなくて、“誰かの役に立ちたい”とか、“もっと美味しいものを作りたい”とか、人の幸せにつながるところにベースがあります。

お金に換えると、100円は100円でしかなくなるし、儲かったか儲かってないかという0か1かの話になってしまいます。お金に換えられないものを持っていると、余白が生まれて、新しいものや異なるものが出てきます。ものごとを貨幣価値だけで考えるようになると、イノベーションは起こりません。

──事業を長く続けることが大事だというお話がありましたが、100年以上続いている世界の企業のうち、半数以上が日本にあるという調査結果が出ています(日経BPコンサルティング、2020)。中でも京都は特に老舗企業が多く、次の世代のことを考えて決断することが当たり前になっていますよね。

先ほどもお話ししたように、京都は戦が多く、何度もまちが焼けて、人々は常に不安定な中で生きてきました。だからこそ、安定して続いていくことの幸福感を知っているんでしょうね。また、持続可能なビジネスが育つ背景として、寺社が多く、仏教や自然崇拝の思想が生活に根付いていることも大きいと思います。自然環境に負荷をかけるとしっぺ返しが来ることを、感覚的に理解している人が多いんじゃないかな。

ここで大事なのが、事業を安定させるためには「破壊」が必要だということです。イノベーションは、破壊から生まれます。今まさに新型コロナウイルス感染症が世界に様々な破壊をもたらしていますが、生物の歴史を振り返ると、大きな破壊の後には必ず新しい種が繁栄し始めます。事業の持続可能性を考えてきたかどうかを、世界中の企業が問われていますよね。

日頃から社会に目を向けている企業は、今の混乱の中でもやはりすぐに世の中に必要とされる動きを仕掛けています。少し科学的な話になりますが、社会を俯瞰したり、抽象化して思考するためには、脳の動きを一度止めないといけないそうです。つまり、目先の利益を稼ぐために脳を使い続けていると、いつまでも広い視野は持てません。ある程度のゆとりと安定が必要なんです。

3. 合理性と非合理性を併せ持つまち、京都

──これからの経済のあり方を考える時に、京都から他の都市に伝えられることがあるとすれば何でしょうか?

経済活動におけるコミュニティのあり方も、京都は独特ですよね。他の都市は、何か始める時に、まずコミュニティを作りたがる傾向があります。その結果、誰でも所属できてしまうようなコミュニティが多くなります。京都でもネットワークは重要なのですが、人がコミュニティに依存していないんです。「いけず」な人の集まりだから、個がしっかり立っていないとそもそもコミュニティに属せない。

僕はむしろ、今の時代は人と離れることが大事なんじゃないかと思っています。孤独になると何が大事かがわかるし、逆に言えば自律していないと孤独に耐えられません。コミュニティができることは結果であって、最初からコミュニティ作りを目的にするのは良くないですね。

──行政、市民、企業の力のバランスを考えると、京都は市民が強くて行政が弱いですよね。大室先生は市の外郭団体として京都市ソーシャルイノベーション研究所を作られましたが、行政には担えない役割や市民と企業が担うべき役割について、どうお考えですか?

行政は立場上、「破壊」することができません。一方、企業やNPOなどの民間が動くと、自然と破壊が起こって余白ができます。多くの地方都市は行政が全ての中心になってしまうから、余白ができず、創発性やクリエイティビティが発揮されません。

京都は大学が多いことも特徴的ですね。様々な分野の研究者が約3万人いるので、自ずと色々な知恵が集まり、多様性が生まれています。結果としてLINEやパナソニックなどの企業が京都に研究拠点を置くようになった今、明治維新の時に教育に舵を切った京都のすごさを改めて感じます。

人や企業が京都に惹かれるのは、文化があるからです。文化は、論理だけでは捉えられません。僕は最近、京都は合理的な世界観と非合理的な世界観が常に同居しているまちだと考えるようになりました。客観的にどうだとか、いくら利益が出るとか、そういう話はわかりやすいんだけど、それではつまらないと思う人が増えています。彼らは、見えていない世界を見ようとします。客観という概念は、本来100人いれば100通りの見え方があるはずなのに、効率性を上げるためにそれを1つにしようとすることなんです。だから、客観に依存すると創発性がなくなっていきます。合理性と非合理性、主観と客観を併せ持つ両義性が、京都にはありますね。

4. さいごに

──行政が弱い立場を保っていられるのも、市民や企業が経済合理性だけで動いていないからなんですね。京都は価値観の特区として、1200年を越える歴史を紡いできたのだと思いました。

他の都市も、もっと独自の価値観を出していければいいですよね。アメリカを見ると、たとえばニューヨークとカリフォルニアには違う価値観が息づいています。ニューヨークは経済合理性を極限まで突き詰めているけど、カリフォルニアにいくと、たとえば禅の思想を学ぶ人が多くいて、ニューヨークとは異なる文化圏があります。時代によって中心となる都市が変わることで、常に国家が元気であり続けられ、世界の中心であり続けられる。

日本の都市はどこも東京の真似をするから、本来のおもしろさが損なわれてしまうんですよ。今は大都市か田舎かの二択にしかありませんが、都市の価値観が多様化すれば、生きにくい人たちが自分の価値観に合ったところに移り住めるようになります。そのためには、わかりやすいことの中に真実はないっていうことを、伝え続けるしかないと思っています。

文:柴田明(SILK)


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photo:大室 悦賀
大室 悦賀
社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャル・ビジネスをベースにNPO等のサードセクター、企業セクター、行政セクターの3つのセクターを研究対象として全国各地を飛び回り、アドバイスや講演を行っている。

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