INTERVIEW
August 08.2016

「フェアトレード」を通じて、暮らしを見つめ直す機会を育む「有限会社 シサム工房」【これからの1000年を紡ぐ企業】

「フェアトレード」を通じて、暮らしを見つめ直す機会を育む「有限会社 シサム工房」【これからの1000年を紡ぐ企業】

「フェアトレード」と聞いて、あなたはどんなイメージを思い浮かべますか? チャリティやボランティアと同じような慈善活動をイメージされる方も、多いかもしれません。

「フェアトレード」は、一時的な慈善活動ではなく、継続的な商品の売買を通して、生産者の暮らしを支援することができる“貿易の仕組み”のこと。

その仕組みが機能するよう、生産者に寄り添った形で活動するNGOが介在し、必要に応じた少額融資や技術訓練、保健衛生教育などが行われたり、フェアトレード基準に従って、第三者機関が認証する制度が設けられたりしています。

私たち生活者は、この「フェアトレード」を通じた購買活動によって、経済的に困難な生活を余儀なくされている途上国の生産者に対し、労働や品質に見合う適正な対価を支払い、人々の暮らしの改善と自立を手助けすることができるのです。

今でこそ、フェアトレード製品を扱う店舗や企業は増えてきていますが、20年ほど前は「フェアトレード」という言葉がほとんど知られていないような状況でした。そんな中、先駆けてフェアトレードショップを京都にオープンし、現在まで事業展開しているのが、「有限会社シサム工房(以下、シサム工房)」です。

代表の水野泰平さんにこれまでのこと、これからのこと、企業として目指す未来についてなど、お話を伺いました。

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代表取締役の水野泰平さん

5カ国11団体と共に取り組む、フェアトレード事業

「シサム」とは、アイヌ語で“よき隣人”という意味の言葉です。1999年の創業以来、「シサム工房」という名前にはフェアトレード事業を通じて世界中の人々の“よき隣人”でありたいという思いが込められています。

水野:世界中を探しても同じ人間なんて一人としていません。異なるからこそ、考え方も違うし、ぶつかることもある。だけど隣人は、無関係では生きられません。同じだから一緒にいるのではなく、異なる個性を尊重し合いながら、隣人として生きる人が増えていってほしいと思っています。

そんな思いと共に、「シサム工房」は、インド・インドネシア・タイ・ネパール・フィリピンの5カ国を拠点に活動する11のNGO団体と協力しながら事業を展開しています。

主となるのが、京都・大阪・神戸に計7店舗展開している「直営ショップ事業」と「卸事業」。衣類や雑貨をはじめとするフェアトレード製品を直営店や全国約350の取引先ショップを通じて、生活者のもとへ届けています。

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京都・裏寺通り店

そして、ここ数年の新たな取り組みが、フィリピンの環境NGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク」と協力しながら進めている「コーヒー事業」です。

このコーヒーは、フィリピン・ルソン島北部のコーディリエラ地方で、小規模農家の人たちが育てた生豆を、安定した適正な価格で取引し、さらに奨励金を付与する仕組みで輸入されています。

コーヒーの栽培は、森林を破壊して大量に生産するプランテーションではなく、タピオカの原料となる芋、キャッサバやバナナ、ウリなどの換金作物や樹木を混在して植え、農薬を使わずに森をつくりながら、限られた土地で複合的に収入を得られるようにする「アグロフォレストリー」という農法で行われています。

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「アグロフォレストリー」でつくられた畑

焙煎は木津川市にある「中山珈琲焙煎所」に依頼し、「SISAM COFFEE」の製品化を実現。店舗やオンラインを通じて販売を始め、全国の飲食店・自家焙煎所に生豆・焙煎豆を提案するなどして「2016ソーシャルプロダクツアワード」の優秀賞も受賞しました。

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この「コーヒー事業」を通じて、つくり手には「安定した生活」を、売り手には「継続的な収益」を、買い手には「極上の一杯と気持ちのいい買い物の機会」を、社会には「思いやりの循環」を、地球には「環境負荷の少ない農業」を、という「五方良し」の状況を生んでいきたい、と水野さんは言います。

商品は、麻袋単位の生豆に加えて、焙煎したものでは個人向けの200gパック、業務用の1kgパック、個人・法人向け定期購入「コーヒー定期便」も用意されています。

さらに、力を入れている新たな取り組みがもう一つあります。それが、「フェアトレードノベルティ事業」。オリジナルのエコバッグやオーガニックコットンのTシャツ、マグカップなどを「フェアトレード」の仕組みの中でつくることができます。

この事業を始めて2年。これまで小学校や大学、国際会議などで採用されてきましたが、水野さんは、これからは企業の方にも利用してもらいたいと考えています。

それは、「コーヒー定期便」のサービス同様「国際協力」や「CSR活動」と大上段に構えなくても、お得意様に配るノベルティグッズにフェアトレード製品を選択したり、オフィスで普段飲んでいるコーヒーに「フェアトレード」のコーヒーを選択するなど、少しお金の使い方を意識するだけで行えて、また、そうした企業が増えることで起こる、社会的なインパクトに期待しているからなのです。

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世界を回ってわかった、当たり前の違い

水野さんは大学生の頃から、反アパルトヘイトのミュージカルを日本に呼ぶ団体に参加するなど、積極的に市民活動に加わっていました。そこには“やり場のない怒り”があったといいます。

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水野:もともと非営利活動や国際情勢に関心があったんですが、たまたま観に行った試写会で「サラフィナ」という南アフリカでのアパルトヘイトを題材にした映画に出会ったんです。

この映画の内容がストレートに心に響いてしまって、「生まれによって、肌の色によって、差別されるなんて、どう考えてもおかしいだろう!!」と、どうしようもない怒りがこみ上げてきて、その場にいた市民団体の人たちに「僕にも何かできませんか?」と声をかけたんです。結構そういうところはありますね(笑)。

それ以降、南アフリカに限らず、さまざまな人権や貧困の問題に関心を持つようになった水野さんは、バックパックを背負って、いろんな国を旅して回ることにしました。しかし現地を訪れてみると、そこには自分が思っていたこととは少し違う現実があったそうです。

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バックパッカー時代の水野さん

水野:心のどこかで、現地の人たちのことを「かわいそうな存在」として見ていたと思うんです。もちろん、厳しい現実がそこにはあるのですが、同時にたくさんの笑顔もあって、僕たちの生活と同じ「日常の暮らし」がありました。

その時、彼らを「かわいそうな存在」としてではなく、同じ地球で共に生きている隣人だと実感したし、実感しながら生きていきたいと、漠然と思うようになったんです。

そういった経験を経て、大学卒業後はNGOの海外現地調整員としての仕事につきたいと考えていた水野さんですが、ある日、エスニック雑貨店とレストランを運営する会社と運命の出会いを果たします。

水野:最初は、ネクタイを締めなくてもいい仕事もあるんだな、なんて軽い興味だったんですが、卒業後をリアルに見据えることで、社会でお金をいただく仕事を本気でしようと思い直し、面接の時には社長の目を見ながら「なんでもやります!」って言ってましたね(笑)。

社長からは「皿洗いからだぞ!」なんて言われていたんですが、いざ採用していただいて出社したら、皿洗いではなくて、バイヤーとしての雇用だったんです。国際協力への意識を持ちながら、社会でバイヤーとして働かせていただけて、物を見る目はもちろん、何より物へのこだわりを持つことができた。本当に幸運でした。

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バイヤー時代の水野さん

この会社での4年間が、水野さんにとって大きな転機となりました。

水野:店舗を持ち、学生時代から知識として知っていた「フェアトレード」の商品を売りながら、情報を発信したり、人が集まってきたくなる「場」をつくることが将来の選択肢の1つになりました。

そして、入社前から考えていたNGOに勤めるのと、「場」をつくること、10年後の自分を想像して、どちらが自分らしく生き生きとしていられるかと考えたら、後者の方だと思えたのです。

自分が大好きな「古くて味わいのあるものでつくった空間」で、「フェアトレード」の商品を提案できたら、チャリティと誤認されている「フェアトレード」を違う形で伝えることができるんじゃないかとも思いました。

だから僕はもともとソーシャルビジネスをしているつもりも、社会起業家のつもりもなくて、自分がこの社会で何をして生きていきたいかを大切にして、それを実現しようと思っているだけなんです。

社員が夢を見られるフェアトレード事業へ

そんな「シサム工房」のスタッフは現在47名(2016年7月現在)。その半数以上が既婚者です。このスタッフ全員が将来の夢を見られるようなフェアトレード事業にしていきたいと水野さんは考えています。

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「シサム工房」のスタッフのみなさん

水野:おかげさまで創業から17年が経って、規模もそこそこになってきました。でも、今は集っているスタッフ個人の志に支えられている部分がまだ拭えません。

時間が経てばライフステージが変わってきます。その時に、ここにいる志のある人たちが、生活のために夢を諦めるなんてことがないよう、ここで能力を活かして働き続けられるよう、待遇面でも他社を超えるくらいの会社にしていきたいと思っています。

例えば、イギリスの国際NGOってすごいんですよ。全国に支部があって、そういうところは経済的にも余裕があり、優秀な人が安心して働ける仕組みになっていて、スペシャリストが集まっています。僕は「シサム」を、そんな「フェアトレード」のスペシャリスト集団にしていきたいんです。

熊本市や名古屋市が「フェアトレードタウン」に認定されるなど、「フェアトレード」そのものに対する世間の認知は着実に上がりつつあり、「フェアトレード認証ラベル」がついた市場はこれからさらに広がっていくはずです。

しかし一方で、それだけにならないような配慮も必要だと水野さんは感じています。

水野:「フェアトレード認証ラベル」は素晴らしいことですし、僕たちもその市場でチャレンジさせていただいています。ただ、ラベルだけが先行して、背景がおざなりになるような状況は、本末転倒ではないかと思っています。

また、ラベルがなくても、しっかりとした活動をしていて、支えていきたい背景を持つ製品はたくさんあって、そのことをきちんと、ショップなどを通じて伝えていく必要があります。

今後、新たにフェアトレード製品を選んでいただけるお客さまを増やしていくには、「フェアトレード」に甘えるのではなく、製品の魅力をとにかく高めていくことや、ショップの店員やお店の魅力を通じて「シサム」を好きになってもらうなど、選択したくなる工夫が必要だし、大事だと思っています。

そして最後に、水野さんは「フェアトレード」の最大の魅力は、「自分たちの暮らしを見つめ直すこと」だと語ってくれました。

水野:食べ物、着る物、便利な物。必要以上の物に囲まれて暮らす私たちは、暴飲暴食を繰り返し、飽きたら捨てるを繰り返しています。それも無意識のうちに。

「フェアトレード」は、物の向こうにいる人のことを想って行う買い物です。その想うという行為が、自らの暮らしを見つめ直すきっかけになるはず。

そして、物の向こうにいる人のことを想像できた時、その人がどんな想いで、どんな経緯でつくったものかを実感できた時、その人の体温を感じることができた時、その物は自分にとって特別な物になる。そんな気持ちを取り戻すことが、何より大切なのではないかと思っています。

フェアトレードはお買い物を通して参加できる支援の仕組み。そして、同時に、自分たちの暮らしをよりていねいに、心豊かにしてくれるものです。

あなたの街に、フェアトレードショップはありますか? こちらに「シサム工房」が大学生と一緒につくったフェアトレードマップがあります。もし近所に素敵なお店があったら、一度訪れてみてはいかがでしょうか。

また、「シサム工房」にはオンラインストアもあります。商品の販売だけでなく「物の後ろにあるストーリー」が紹介されていますので、どのような思いでその商品がつくられているのか、ぜひご覧になってみてください。

大量生産・大量消費社会の中で、「できるだけ多くのモノを手に入れることが幸せ」という時代から、「つくり手に想いを馳せ、社会や地球環境に配慮しながら、丁寧な暮らしを志向する」時代へ。

そのシフトは、きっともう始まっています。あなたも「シサム工房」を通して、そんな暮らしを叶えてみませんか?

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◼︎企業情報
有限会社 シサム工房
〒606-8211 京都市左京区田中西樋之口町94-2
TEL|075-724-5677 FAX|075-712-2336
URL|http://www.sisam.jp/

インタビュアー:赤司 研介(京都市ソーシャルイノベーション研究所 エディター/ライター)


    photo:水野泰平(みずのたいへい)
    水野泰平(みずのたいへい)
    「有限会社シサム工房」代表取締役社長。
    1969年東京生まれ。同志社大学商学部卒、立命館大学国際関係研究科修士課程修了。大学時代に南アフリカのアパルトヘイト問題と出会い衝撃を受け、途上国の人権、貧困問題に関心を持つ。エスニック雑貨店を経営する会社でバイヤーを経験した後、1999年京都、百万遍にフェアトレードショップ、「シサム工房」を創業。現在、全国の小売店約350店舗への卸販売と、直営のフェアトレード ショップ(京都2店舗、大阪3店 舗、兵庫2店舗)、オンラインストアの運営をしている。

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