COLUMN
Mar 29.2019

未来を創造する思考とオープンイノベーション2.0│ソーシャル・イノベーション・サミット2019レポート

「未来を創造する思考とオープンイノベーション2.0」と題した、ソーシャル・イノベーション・サミット2019。2月21日(木)、約120名の参加者をお迎えして、京都大学 国際科学イノベーション棟 シンポジウムホールにて開催しました。

「芸術思考」がキーワードの1つになっており、ビジネスや教育に関する話題の中ではこれまであまり聞いたことがなかった「妄想」「想像」という言葉が何度も登場したことが印象的でした。

未来を創造する思考とオープンイノベーション2.0│ソーシャル・イノベーション・サミット2019レポート

なぜ今、私たちにとって「芸術思考」が大切なのか

まずは、京都市ソーシャルイノベーション研究所 所長 大室悦賀より、今回SILKが「未来を創造する思考とオープンイノベーション2.0」というテーマを掲げた理由をお話しました。

リーマンショック以降、世界中で価値観の変化が起こり始め、企業・行政・NPOの役割と関係性はどんどん複雑化しています。その中で、企業の役割が大きく変化してきました。現代の企業は、経済的な利益を出すことだけでなく、働きがい、社会的課題の解決、地域の活性化など、複雑にからみ合う様々な役割を担う存在になりました。

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論理や科学だけでは複雑化した社会を捉えることはできなくなり、あらゆる分野で「ビジョンを描く力」が必要とされています。手塚治虫が描いた『鉄腕アトム』を目指して、Hondaが世界初の二足歩行ロボットASIMOを開発したように、未来を想像して描いたビジョンからビジネスを創造することでイノベーションが生まれるのです。

「想像できていない世界は創造できない」

より複雑化・多様化する社会において、競争や利潤最大化とは異なる企業の存在意義を、企業自らが考える時代がやってきました。複雑な社会をどのようにとらえてイノベーションを起こしていくか。そんな問いを会場で共有し、サミットがスタートしました。

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起業家は、哲学者なんだと思うんです

続いて壇上に上がったのは、株式会社和える 代表取締役 矢島里佳さん。大室所長との対話を通して、和えるの個性豊かな事業展開から、芸術思考とオープンイノベーション2.0を紐解いていきます。

矢島里佳さん
1988年東京都生まれ。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、2011年3月に大学4年生で株式会社和えるを創業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、0歳からの伝統ブランドaeruを立ち上げ、その後も様々な事業を展開中。

●私たちの業種は、「伝統産業を伝えるジャーナリズム」です
「和える」はよく小売業と呼ばれるのですが、既存の事業のカテゴリーに当てはめる必要はないと思っています。強いて言うなら、「和える」の事業は「伝統産業を伝えるジャーナリズム」業なんです。

●利益を出すのは当たり前にやるべきことで、「伝統を次世代につなぐ」ことが大事
「和える」の第一目的は、利益を出すことではありません。なので、商品が壊れたら、新しいものを買ってもらうよりも修理をして長く使ってほしいです。もちろん必要な利益を生み出す努力はしていますが、手段と目的が反対になってはいけないと思っています。

●「楽しいかどうか」「『和える』らしいかどうか」が、最も重要な判断基準
迷った時や意見が食い違った時は、どちらの方が楽しいかを考えますね。他には、伝統を次世代に引き継ぐことにつながっているか、近江商人の「三方よし」になっているか、そして「和える」らしいかどうか、ということが判断基準になっています。

●「こういう世界をつくりたい」という絵を描き切り、そして言い続けてきた
色々なところで自分が描いたビジョンの話をすると、色々な人がそのビジョンを好きになってくれそうな人を紹介してくれます。そこからどんどん、一緒に事業をする会社や周りの人のためになるように、絵に筆を加えていくイメージです。そうして一つの絵が実現すると、また共感してくれる人が現れて、次の展開につながってきたんです。

●あるべき論に縛られて、0(ゼロ)の状態になれない人が多い
「0→1」の人材と「1→100」の人材、という話がよくありますが、そもそも「0」になれない人が多いですよね。学校や企業でさんざん“〜であるべき”だと教わるからでしょうか。私は就職したことがないし、親からも常に「どう思う?」という問いを与えられて育ってきたので、こうあるべきという意識がないんです。社長だからって気にせずに、分からないことはどんどん周りの人に聞いちゃいます。

●機能よりも先に、哲学がある
起業家は哲学者なんじゃないかと思っています。でもビジネスの現場では哲学だけを語っても話を聞いてもらえないから、理解してもらうために論理や機能の話をつけ加えている感じです。そこは自分のビジョンを実現するために必要な力として、頑張って身につけてきたつもりです。

●論理ではなくビジョンを共有することで、多くの人を巻き込むことができた
論理で動いていると、お互いの意見がずれた時に、重箱の隅をつつくような不毛な議論になりがちです。絵を描いて事業の先にあるビジョンを共有しながら仕事を進めてきたので、これまで気難しいと言われる職人さんともトラブルになったことはありません。

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「未来を創造する思考方法」を、それぞれの視点から語る

続いては、様々な分野でご活躍されている5名の方に壇上に上がっていただきます。

ウスビ・サコ (京都精華大学 学長、人文学部 教授)
木谷哲夫 (京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンス寄附研究部門 教授)
小池禎 (オムロン株式会社 イノベーション推進本部デザイナー)
矢島里佳 (株式会社和える 代表取締役)

モデレーター : 桜井肖典((一社)RELEASE; 共同代表/構想家/SILK コミュニティ・オーガナイザー)

芸術思考をビジネスに活かすヒントに溢れた矢島さんのお話を受け、それぞれの視点から「未来を創造する思考方法」について語っていただきました。

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●Solution(解決策)ではなく、Question(問い)がイノベーションを生む
イノベーションを起こすためには、問題解決のための策(たとえば、アンケートや観察など)を練ることよりも、「あるべき姿は?」「理想像は?」という問いにたどり着くことが大切です。Solutionはその時々で変わっても、根源にあるQuestionは変わりません。ただ、こういう話が出ると、日本人は真面目なので何でもかんでも「問いを立てなくては!」と思ってしまう人が増えるんですよね(笑)。

●学生が怖がりになって、自分の哲学を持てなくなっている
日本の教育では「自分とは何か」を考える機会を提供していません。学生が「0」になることを怖がっているのは、大人が「0」になることを怖がっているからじゃないでしょうか。

●今の教育では、妄想できる力、ビジョンを描く力を育てられない
矢島さんの自由な発想を支えているのは、自己肯定感だと思います。生まれた時から自己肯定感が低い人はいません。生まれ持った自己肯定感をどんどん失わせていく今の日本の学校や社会のあり方は、変えていく必要があります。アメリカの高等教育は既に変化しつつあり、最近は知識の伝達よりも、コーチングが重視されるようになっています。

●イノベーションの意味が変わってきた
社会が合理的に、便利に変化してきたことで、論理的、科学的に進化させただけではイノベーションだと言えなくなってきています。だから、芸術思考が求められるようになってきているのではないでしょうか。

●伝わらなくても、諦めずに伝え続ける
アイデアを人に話してうまく伝わらなかった時に、諦めるのではなく、どうすれば自分の直感を相手に伝えられるか、チャレンジし続けることが大事です。伝わらなかったからといって、自分が自分の直感を否定してはいけません。

●必ず未来は進んでいるという考えをやめよう
未来を考える時、必ず進化系で考えてしまいます。でも、「速くなる未来」だけじゃなくて「遅くなる未来」があってもいいと思うんです。必ず未来は進んでいるという考えが、自分たちを苦しめているのではないでしょうか。

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以上のように、90分間のトークセッションでは様々な角度からお話が繰り広げられました。一部を動画にて公開しますので、おもしろいと感じていただいた方も、よく分からないと思われた方も、ぜひ登壇者の方々の生の声を聞いて考えを深めていただければと思います。

(※動画は近日公開予定です)

この日、私にとって最も印象的だったのは、「新幹線の登場は画期的なイノベーションだったけど、新幹線からリニアへの進化は今の社会にとってイノベーションと言えるのか?」という話題の中で、矢島さんが発したこちらの一言。

「私は気球がいいです。東京から大阪まで気球に乗って行けたら、めちゃくちゃ楽しくないですか?」

楽しそうだな、いいな、と感じながら、すぐに「いや、でも……」とネガティブな要素を思い浮かべてしまう自分もいて、こうやってイノベーションの芽を自ら摘んでしまうことが、社会の中でもたくさん起きているのだろうなと実感しました。皆さんのお話を糧に、仕事においても、もっともっと楽しい想像をふくらませていきたいと思います!

写真・文:柴田明(SILK)


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