SILKの研究
Aug 12.2021

Local×Organic=Sustainableの中立な話し合いの設計|鈴木 健太郎|京都オーガニックアクション

認定企業の株式会社坂ノ途中も関わる「京都オーガニックアクション」では、八百屋同士、農家同士が情報を共有したり、共同で地場のオーガニック野菜を地域内で流通させるような取組が次々と生まれています。京都オーガニックアクション協議会理事長の鈴木健太郎さんに「中立な話し合いの設計」という視点でその活動と広がりについてご寄稿いただきました。

Local×Organic=Sustainableの中立な話し合いの設計|鈴木 健太郎|京都オーガニックアクション

[目次]

1. 京都オーガニックアクション(KOA)とは
2. なぜ Local&Organic なのか?
3. 「百姓一喜」から始まった物流共有プロジェクト「KOA便」
4. プラットフォームとしての「KOA協議会」
5. 目標と今後の課題

1. 京都オーガニックアクション(KOA)とは

京都オーガニックアクションは、主に京都市内のこだわり産直八百屋と、京都府下のオーガニック生産者の集まりです。

「オーガニック」や「サスティナビリティ」など、大量生産、大量消費の時代を経て芽生えてきた「持続可能な社会」という共通の価値観をぼんやりと共有するところから始まりました。具体的な活動としては、物流の共有と効率化というビジネス的な側面と、個々が抱える様々な課題を共有し、解決に向けて話し合うためのプラットフォームという公的な側面があります。

この二つの側面ははっきりと線引きされているわけではなく、メンバーそれぞれによって理解も異なります。ビジネスツールとして物流だけを使っているメンバーもいれば、普段考えていることを共有し、実現するための場として捉えているメンバーもいます。

2. なぜ Local&Organic なのか?

僕は2010年に京都府南丹市の田舎の集落に移住しました。里山整備のNPOや、農家の手伝い、林業、そしてオーガニック野菜の流通など、田舎で見つけた様々な仕事をしている中で、田舎社会が抱える課題の多さに愕然としました。

本来ならば田舎社会には、衣食住の全てを自給できるだけの資源が揃っています。にも関わらず、少子高齢化、過疎化、農地や山林の荒廃などが進み、田舎での生活は持続不可能だと思われているのが現状です。一方で、ライフラインを絶たれたら数日で破綻してしまうような都市が、まるで永遠に繁栄するかのように思われている。そこに、現代社会の矛盾を強く感じました。

いろいろ体験した結果、田舎を持続可能にするためには、何世紀も続いてきた村落コミュニティの自治システムをアップデートする必要があるという思いに至りました。そのためには、今後ますます放棄されていくであろう農地や空き家を、持続可能な形で維持してくれるような農家、すなわちオーガニックの農家を支える仕組みが必要ではないかと考えました。そこで、地場のオーガニック野菜を地域内で配達して回る、移動八百屋「369(みろく)商店」を2014年に開始しました。

戦後の農業は、安定的な食糧生産を目指してJAを中心に産地化(※1)が進み、大量生産のために農薬や化学肥料、大型の農業機械などが導入されてきました。その結果として、「豊か」な消費社会と飽食社会は実現したものの、多様な食文化や農文化は失われ、河川や海は農薬や化学肥料により汚染され、化石燃料に頼る大規模流通によりフードマイレージ(※2)も上がりました。

※1 産地化:ある農産物をその地域の特産品とする動き。
※2 フードマイレージ:食料の輸送距離。輸送に伴い排出される二酸化炭素が地球環境に与える負荷に着目し、提唱された概念。

日本の有機(オーガニック)農業はこうした高度成長に対するアンチテーゼとして、1960年代に安心安全な食べ物を作るための運動として始まりました。しかし、その動きはあくまでもマイノリティに過ぎず、田舎の農業の主流は農薬・化学肥料を使ったいわゆる慣行農業です。

現在の有機農業の状況を見ると、以前のような抗議運動としての色は薄れたものの、田舎では依然として少数派で、実践する農家のおそらく9割以上は都市から移住してきた新規就農者です。

有機農業をめぐる課題はとても複雑です。本来、コミュニティに新しい可能性をもたらす存在である若手新規就農者が、田舎ではなかなか理解されず、ニーズが都市部にあるため生産物のほとんどは東京など大都市に出荷されてしまいます。そのため田舎では、オーガニック野菜を買いたいと思っても、売っているお店がありません。

3. 「百姓一喜」から始まった物流共有プロジェクト「KOA便」

過疎化のペースにははるかに及ばないものの、田舎で新規就農して有機農業を志す人は少しずつ増えています。ただ、有機農家にはJAや市場のような公的な仕組みとして頼れるものが何もないため、新規就農者は孤立しがちです。

一方で、オーガニック野菜の販売先を見てみると、ロットは小さいけれど生産者と直接つながって安心安全な野菜を販売したいという、こだわりの強い八百屋や会社が多いことに気づきます。こだわりが強い分、足しげく畑まで通って仕入れをするなど手間もかけています。

同じ価値観を共有している農家や八百屋が、一堂に集まって、一緒にご飯を食べ、酒を飲みながら語り合うような場があったら、何か面白いことが起こるのではないか?そんな単純な発想と衝動から、2017年の春に、「百姓一喜~農家大宴会~」と言うイベントをいきなり企画しました。おそらく30人ぐらいに声をかけたのですが、結果として集まったのは70人以上。ものすごく熱量のある場となり、宴は朝まで続きました。

「百姓一喜」のあと、その余韻に浸りながら、この新しく生まれた繋がりの可能性を考えたときに、地場のオーガニック野菜を共同で集荷して配送する物流便「KOA便」の構想が生まれました。

八百屋4軒、農家10軒ぐらいで1枚のGoogleスプレッドシートを共有し、生産者は毎週火曜日に翌週出荷予定の野菜を登録し、八百屋は金曜日までに注文数を入れる、というシンプルな共同受発注システムを構築。南丹、京丹波、綾部、福知山、京丹後の5つの地域にて、カフェの軒先や農家さんの倉庫などを借りて、周辺の農家さんが野菜を持ち込める「集荷ステーション」を設置しました。最初はオンボロの軽バンで丹後まで毎週通いました。

この「受発注情報の共有」と「エリアごとの拠点による集荷の効率化」の仕組みを、京都府の助成金などを活用しながら少しずつ充実させていきました。2年目には八百屋7〜8軒と農家20軒、3年目には八百屋10軒と農家30軒、というように、少しずつ輪が広がっていきました。

参加者が増えるのと共に、車も軽バンから冷蔵のバンになり、そして4年目となる2020年には冷蔵の2トントラックに。物流事業としての収支も合うようになってきました。

4. プラットフォームとしての「KOA協議会」

KOA便を始めた2017年の秋に、三重県伊賀市の伊賀有機農業推進協議会や、伊賀の有機農産物を扱う卸会社を経営する方がKOAに関心を持って、会議に参加してくれるようになりました。そして、その方を中心に2018年春には「KOA協議会」が設立されます。

設立までの過程、そしてその後もしばらくは内部で様々な摩擦が生じたのですが、このKOA協議会は、農水省の助成金などを活用しながら、物流だけでなく有機農業を取り巻く様々な課題を共同で解決していくためのプラットフォームになっていきます。

農家のIT講習会や栽培技術のワークショップ、八百屋のマネジメント講習、商談会や作付け検討会など、農家同士、八百屋同士、そして農家と八百屋が立場を超えて議論する場になったKOA協議会。これは他にあまり例を見ないようなプラットフォームで、京都から丹後までを繋いでいるKOA便にとどまらず、京都府南部や大原、兵庫県、大阪府、三重県など、他府県からの参加者も増え、会員数も100人を超えるほどになりました。

5. 目標と今後の課題

上にも書きましたが、有機農業を支えるためのJAや市場のような公的な仕組みはありません。

KOA便は、作り手と買い手を繋ぐ市場のような機能をビジネスとして果たしていきたいという思いから、事業として独立する方向で動いています。

KOA協議会は、オーガニック業界を取り巻く様々な課題を取り上げ、その解決のために話し合うプラットフォームとして存在していたのですが、コロナ禍の影響もあり、協議会を先導してきた方が抜けることになりました。まだ決まってはいませんが、近いうちに一度解体することになるかと思います。

KOAはこれまで、外向けの発信をほとんどしてきませんでした。Facebookページでたまに取組紹介や産地訪問の様子などを投稿するぐらいで、一般の消費者の方には、おそらく何をしている団体なのかほとんど知られていません。これまでの4年間に取り組んできたことは、全て農家や八百屋の課題解決のための仕組みづくりのようなもので、専門性が高いことをしてきたのも確かです。

とはいえ、通常ならば競合相手であるはずの八百屋同士、農家同士が情報を共有したり、共同で地場のオーガニック野菜を地域内で流通させるような取組は、社会的にも意義があると同時に、消費者にとっても価値があるはずです。

KOA便がビジネスとして物流量を増やし、オーガニックの地産地消を少しずつ実現していくのと同時に、「京都オーガニックアクション」を、これまで築き上げてきたオーガニックコミュニティをより深めていくためのプラットフォームとして機能させ、持続可能な社会の実現のための Local&Organic をより多くの食卓に広めていきたいと思います。

そのためには、次にあげるような問題を乗り越えねばなりません。

この集まりの特徴である、農家と八百屋、生産者と実需者、と言う利害のある関係性の中で、いかにして社会的に中立な話し合いの場を設計するか?

意思決定のプロセスをどうルール化するか?

継続的に運営するために必要な資金をどのように調達していくか?

社会のフレームの中でどのような団体として定義するか?

自然界の関係性をベースとしたオーガニック野菜を扱う集まりなだけに、「有機的」で「持続的」な関係性をいかに作り上げるかが現在の課題です。

▶︎京都オーガニックアクションfacebookページ
https://www.facebook.com/KyotoOrganicAction/


 


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photo:鈴木 健太郎
鈴木 健太郎
移動八百屋 / 369商店

1977年神奈川県生まれ。父親の仕事で幼少期をカナダ・アメリカにて8年過ごす。学生時代を京都で過ごし、人力車のアルバイトをしながらバックパッカーで世界を巡る。2008年には仏像の彫り師になろうと南丹市にある京都伝統工芸専門学校にて腕を磨く。京都市内の仏像工房を経て、環境問題への興味から、オーガニック農業に興味を持つ。現在南丹市園部町を拠点にオーガニックの野菜だけを扱う移動八百屋369商店として活躍。京都オーガニックアクション協議会理事長でもある。

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