SILKの研究
Jul 27.2021

関係性から生み出す共創の在り方“プロセスシェア”|福冨 雅之|my turn理事

今回の『SILKの研究』は、イノベーションコーディネーター井上 良子が今気になっている人や活動に焦点を当て、その真髄に迫るインタビューをお届けします。お話を伺ったのはSILKフェローの福冨 雅之さん(以下、トミーさん)。トミープランニングの代表として、また、一般社団法人my turnの理事としてwell-beingな社会の実現を目指して活動されています。新卒時からファッション業界で働き、豊富な経験を積んできたトミーさんは、なぜ現在の活動を始めたのでしょうか。梅雨の晴れ間、トミーさんがご自分の庭のようによく訪れるという琵琶湖疏水の緑あふれる自然の中でお話を伺いました。

聴き手/執筆:SILKイノベーション・コーディネーター 井上良子

関係性から生み出す共創の在り方“プロセスシェア”|福冨 雅之|my turn理事

── 初めてお会いしたのは、my turnさんとの打ち合わせの場でしたよね。my turnは子育て中のお母さんが中心となって自分らしさを軸に活動されている法人ですが、どのような経緯でトミーさんが理事に就任されたのでしょうか?

私の父の実家は熊本にあり、300年以上続く呉服屋でした。父が京都に移り、私は桂川と山科で育ち、大学の卒論では「心の豊かさ」をテーマにしました。しかし、新卒で入ったアパレル業界では効率とスピード、経済性ばかりが重視され、感情を職場に持ち込むことが認められないような空気がありました。ちょうどバブルが崩壊する時期でしたね。アパレルの世界で、約25年間、企画、営業、小売りまで幅広く担当し経験を積んだものの、ピラミッド型の組織体制や、大量生産・大量消費への違和感を抱えていました。

そのような中で、会社の上場と倒産、自分自身の大病と復活という2度にわたる転機があり、「平穏な暮らしを守るためにできることは何か?」と自問することが増えたんです。徐々に、「自然と文化に感謝し、心豊かに生きる」ことが自分の存在意義(=パーパス)だと感じるようになっていきました。そして、「自分を活かして愉快に生きる」ことを自分のミッションとして掲げ、2013年から滋賀県の事業も始めます。自然や四季の美しさを感じ、“和ウトドア”という、和の文化や歴史を見直すアウトドアスタイルを提唱する活動をスタート。2015年には滋賀県長浜市のまちづくりにも関わり始め、2017年に起業しました。

my turn代表理事の杉原とは、SILKのフェローに就任した2018年に出会いました。その前年に杉原が立ち上げたmy turnの今後の在り方について相談を受けたことをきっかけに、5か月間のコーチングを通して彼女の独立とmy turnの法人化に立ち会ったことが、理事就任の経緯です。my turnは、杉原に「自分の働き方・生き方を問い直し、新たな可能性に挑戦したい」という強い感情が芽生えたことで、パーパスが明確になり、誕生しました。そんな自身の変化をメンバーや周囲にもシェアしたいという彼女の思いから、my turn塾が始まったのです。

── 杉原さんの生き方の変容とチャレンジについては、SILKのコラムでも掲載していますが、やはり“自分の想い”を大事にされていますね。

企業やブランドのパーパスにも同じことが言えるのですが、自分の思いや世界観を伝えることで、共感が集まります。さらに、事業を生み出す過程を共有することで、お客さんとお互いに楽しみながら参加できるFUN-FUNの関係が生まれ、売り手と買い手という構図ではなく、新しい価値を共に創っていくことができるようになります。このことを私は「プロセスシェア」と呼んでいて、私自身の生き方そのものです。my turnの歩みもこれから広げていきたいプロジェクトも、すべてこのコンセプトに基づいているんです。

── 私も最近、イノベーションを生み出す過程でまだ目に見えていない価値や数値化できない社会的な意義を、当事者の方に代わって翻訳してお伝えすること、言い方を変えれば私自身が共感して応援したいプロジェクトを勝手に語って広げる、というようなことを始めています。これもきっとプロセスシェアですね。プロセスシェアがトミーさんの生き方そのもの、というのはどういうことなのか、もう少し詳しく教えていただけますか?

例えば、私は企業の外部アドバイザーとして、経営者向けのコンサルティングやコーチングも行っていますが、組織の悩みは、ほとんど全てコミュニケーション・関係性の問題に行き着きます。経営者の経営哲学や、どのような思いで経営方針を意思決定しているのかを、なかなか社員や部下の方に伝えられていない実情があります。また、伝えているつもりでも、バブル世代の上司の価値観と世代が異なる部下との間には、見えない隔たりがある場合も。それぞれが自分の仕事で手一杯なことも多いので、私が間に入らせてもらうことでお互いの想いや大事にしていることを伝える、コミュニケーションデザインをしています。これも、関係性構築のためのプロセスシェアだと捉えています。平成の30年間で社会は様変わりしました。モノが溢れる世の中で過去の延長の思考で進めていけば立ち行かなくなりますね。企業が時代に適応するためには、社会と呼吸を合わせること、社会とのコミュニケーションを最適化することが大切だと思っています。そのために、経営者の方の感情をマインドセットして、思考へとつなげています。

どのような想いをもってどのような過程で今に至っているのか、という過去のプロセスだけではなく、これからどんな未来を描き、どんな気持ちでどう行動していくのか、未来についても一緒に想像してもらいます。「共創へのプロセス」をシェアすることで、喜びを分かち合える世界が生まれると信じています。

── なるほど、「プロセス」には過去だけでなく、未来に向けた「共創へのプロセス」も含まれているんですね。完成した商品やサービスだけでは伝わらない想いは「過去のプロセス」として、そして、まだ実現していない、これから起こしていきたい変化のビジョンは「共創へのプロセス」として、シェアされるわけですね。

私自身も、新しく人と出会った時には、自分自身のこれまでとこれからをシェアするための自己紹介をします。well-beingな社会の実現を目指して、自然と人間の社会生態系を創り続けています。20代の頃から探究している「心の豊かさ」をどのようなカタチで社会に提供していけるかを考えながら、自然と人から喜ばれるエシカルな生き方を次世代につなげていきたいという想いで日々活動しています。

── いま新たに取り組まれている、未来に向けてシェアしたいプロジェクトがあるそうですね。ぜひ、最後にそのプロジェクトについて共有いただけますか?

アパレル業界での経験を活かしながらアドバイザーをしているシサム工房さん(SILK第1回認定企業)が、今秋から「エシカルメンズ」のラインをスタートします。ファッションだけでなく衣食住の総合的な切り口で、働き方と暮らしを融合させた“生き方”からエシカルを考えるイベントを8月に開催予定です。このイベントを通して、私たちの生き方一つで未来を変えていけることを伝え、モノの向こう側を感じるためのプロセスをシェアしたいと思っています。とくに男性にとっては、これまであまり多くなかったライフスタイルの選択肢を増やしながら、エシカルな生き方を大切にする者どうしでお互いが繋がり合うことでコミュニティを育み、明るい未来をたぐり寄せる新たな一歩を踏み出したいです。

《イベント概要》
タイトル:京都でつながるエシカルな生き方 ~僕らと明日をつなげる衣食住~
日時: 8月3日(火)19:00〜
開催方法: オンライン (配信元:mumokuteki hall DXスタジオ)
申し込み先:https://ethicalmens210803.peatix.com
問合先:075-724-5677 / info@sisam.jp (シサム工房・村上)


 


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photo:福冨 雅之
福冨 雅之
SILK フェロー
トミープランニング 代表 / 一般社団法人my turn 理事

1969年、京都府生まれ。大学卒業後、京都のアパレルベンチャー企業に就職。神戸、大阪へと約25年間レディースファッションに携わり、企画、営業、小売を経験し、ブランドプロデュースやセレクトショップ開発に従事。

働くなかで“大量生産・大量消費”の社会に違和感を抱き、2015年、滋賀のまちづくりプロジェクトにワークシフトし、人のつながりのある“新しい幸せのカタチ”としての暮らし方を発信していく。

会社員時代には株式上場と倒産を経験し、近年では大病からの復活を遂げ、2017年に起業。デザイン&アート思考をベースに自然観を取り入れた企業コンサルティングやコーチングなどを主軸に活動中。

ライフワークでは、“和ウトドア”を2013年からスタートし、文化と自然を融合させたライフスタイルを提唱。

効率と経済成長が優先される現代社会において、デジタル社会が進んでいく中で、アナログ的な社会は忘れ去られていくのでしょうか?日本人が大切にしてきた文化と自然観によって生まれた“美意識”。これこそが、これからの社会でバランスをとって生きていくのに大切にする意識だと強く思っています。

共著書「ビワイチ公式ガイド ちずたび びわ湖一周自転車BOOK」

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