SILKの研究
Jun 4.2021

京都の地域企業が、社会課題を生まない思想から学んだこと|岩田 有史|(株)イワタ

今回のSILKの研究は、「これからの1000年を紡ぐ企業認定」第4回認定企業、株式会社イワタ 代表取締役 岩田 有史さんです。株式会社イワタは天保元年(1830年)創業。ふとんがまだ特権階級の間でしか普及していなかった頃に、京都三条にふとん店を開いた地域企業です。現在は、快適で安全な寝床環境を通して睡眠を改善する高級寝具メーカーとして事業を展開されています。京都で創業190年を超える地域企業が社会課題を生まない思想から学んだことについて、ご寄稿いただきました。

京都の地域企業が、社会課題を生まない思想から学んだこと|岩田 有史|(株)イワタ

[目次]

1. 創業190周年、歴史を紡いだ進取の気性
2. 潜在意識に到達する「問い」との出会いが、新たな創造を促す
3. コロナ禍をきっかけに、企業理念を昇華し、パーパス(目的)へ
4. 持続可能な未来のために、天人合一の知恵を活かす
5. さいごに

1. 創業190周年、歴史を紡いだ進取の気性

株式会社イワタは、羽毛やラクダ、ヤク等の毛、麻、綿などの天然素材を用いた高機能寝具を独自の技術で製造しています。

綿の栽培は、戦国時代に兵衣、火縄や陣幕などの軍需を目的に始まり、江戸時代に国内各地で広がりました。イワタの前身である岩田蒲団店は天保元年(1830年)の創業であり、ふとん業界の草分けとも言えます。そうした進取の気性が家風として受け継がれたのかもしれません。祖父の3代目市兵衛は、手作業だったふとん綿製造の機械化に挑戦し、品質向上と量産化に成功しました。続く父の卓三は、羽毛研究の先駆者として数々の特許を取得し、羽毛ふとんを日本の風土に適した寝具に育て上げました。

先代たちに倣って新しいテーマを模索していたとき、出会ったのは「睡眠」というキーワードでした。「私たちは良質の睡眠環境の提供を通して、人々の健康増進に貢献します。」という企業理念を基に、快適で安全、人と自然に優しい寝具を開発・製造してきました。体と心の健康を維持増進するには、質の高い睡眠が求められます。その実現に少しでも役立ちたいというのが私たちの願いです。

2. 潜在意識に到達する「問い」との出会いが、新たな創造を促す

「これからの1000年を紡ぐ企業認定」を知ったのは、京都商工会議所からのメール案内だったと記憶しています。SILKのコーディネーターのサポートを受けて、「1.経営理念の実践」「2.マルチステークホルダーへの配慮」「3.ソーシャルビジネスの創出」の3つの視点から、自社の取組を整理しました。その過程で出会ったのが、「社会課題を生まない」という思想です。「社会課題をビジネスで解決する」というのは理解しやすい考え方でした。一方、「社会課題を生まない新しい商品やサービス、あるいはシステムを生み出す」とは、どういうことか。認定後もその問いは残されたままでした。

認定を受けた翌年の2020年、使い続けることをテーマにした自然派寝具の新シリーズ「unbleached」を発表しました。「unbleached」は素材を無染色・無漂白・蛍光剤不使用のものだけに限定することで、漂白・染色工程において、水資源や大気への影響を抑えました。製品レベルで有害化学物質の国際規格・エコテックススタンダード100の認証を受け、寝床環境の安全性も確認しています。製品寿命の延長と快適性の維持のために、製品に縫い付けたQRコードから日干し・水洗いなどの取り扱い方法にアクセスできるようにしました。経年変化した場合は、弊社の工場で仕立て直しにより再生を図ります。また、新ブランドの発売にあたり、自社工場と京都直営店の電力を、小水力発電等の再生可能エネルギー100%の電力に切り替えました。「社会課題を生まない」という思想を強く意識して開発した訳ではないのですが、振り返れば、潜在意識に到達した「問い」との出会いが、新たな創造を促したのだと思います。

3. コロナ禍をきっかけに、企業理念を昇華し、パーパス(目的)へ

「unbleaced」のブランドデビューに際して、コピーライターやクリエイティブの皆さんと共に、本当に何度も議論を重ねました。その結果生まれたのが、「自然との調和を眠りから」というタグラインです。この短い言葉のエッセンスには、二つの意味が含まれています。ひとつは「自然のリズムと同調した良質の睡眠」、もうひとつは「自然の限界範囲内でのものづくり」です。 

2020年はコロナ禍で積極的なPR活動ができませんでしたが、その代わりに原点を見つめる時間を持つことができました。そしてたどり着いたのは、従来の企業理念を昇華し、新ブランドのタグラインを自社のパーパスとして再定義することでした。私たちは「自然との調和を眠りから実現する」をパーパスとし、快適で安全な寝具を最小限の環境負荷でつくり、それぞれの人に最適な寝床環境を提供することを、自社の存在意義と考えました。企業理念が会社の理想や信念などを示すものであるのに対し、パーパスは社会における役割を意識した意味合いが大きいと捉えています。 

産業革命以降、資本主義がもたらしたモノの豊かさは、大量生産し、使い終わったら廃棄する一方通行の経済システムの上に成り立っていました。持続可能な社会の構築が望まれる中、廃棄を出さないデザイン(設計)を行い、製品や材料を使い続ける、循環型経済システム(サーキュラーエコノミー)への移行が期待されています。アフターコロナの時代になっても、コロナ禍で起きた変化は元のようには戻らないと言われますが、戻さない方向にベクトルを向けたいと願っています。

4. 持続可能な未来のために、天人合一の知恵を活かす

2021年は、新たに下記の4つの取組に着手しています。

1.ゴミを減らすゼロウエスト活動
2.廃棄物の再資源化
3.パッケージから石油由来の削減
4.リサイクル性の向上

ゴミをゼロにすることは難しくても、廃棄量を削減することは可能です。ごみの現状を把握し、捨てる物を分別し、活かせるものは再資源化します。精製過程で取り除いた羽毛やラクダのクズ毛からとても良いたい肥が生まれ、裁断くずが裂き織によって美しい生地に蘇ることがわかりました。パッケージはできる限り植物由来の生分解性が高いものに切り替えていく計画です。また、寝具の仕立て直しの対応範囲も広げます。難しく考えたりせず、始めてみることが大事なのではないかと思っています。そこから、次の展開、新たなつながりが生まれると思うからです。

人は自然の一部であり、自然に繋がっています。植物が太陽、月、地球の運行規律の影響を受けるように、人の暮らしは自然や環境と密接な関係にあります。自然界のあらゆる変化は、直接的に、間接的に、地球に暮らす生き物すべてに影響を及ぼします。東洋には古くから「天人合一」という考え方があり、自然の周期に倣った暮らしを尊重してきました。それは心身を健やかに育む営みであり、自然や環境への影響を抑える知恵でもありました。持続可能な未来のために、古き知恵を現代に活かし、一歩ずつ歩みを進めて参ります。

5. さいごに

過去の延長に現在があり、その先に未来がある。ずっとそれが当たり前のように思っていました。しかしながら、今回、コロナ禍で痛感したのは、歴史は線のように繋がらないということです。翻れば、過去には社会構造を根底から覆す大きな変化がありました。時には思いもよらぬ出来事から苦境に直面したこともあるはずです。その節目をひとつずつ乗り越えてきた先人たちの勇気と努力に、心から有難さを感じています。そして、時代が大きくリセットされる今、どこへ向かうべきか。自問自答の連続ですが、まずは新たな時代と向き合う姿勢を保ちたいと考えています。変化に対して臆することなく、自発的に適応していくことで、社会に役立つ新しい役割が果たせることと願っています。


 


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photo:岩田 有史
岩田 有史
株式会社イワタ 代表取締役社長

1983年株式会社イワタに入社。1988年より独学で睡眠の研究を始める。その後、日本を代表する睡眠の研究者らに師事し、睡眠研究機関と産業を繋ぐ橋渡し役として活躍する。 眠りのメカニズムに裏付けられた見識は、ヒット商品を数多く産業界に送り出すことに成功する。その活動は商品企画だけに留まらず、異業種コラボレーション、大学との共同研究およびコーディネイトなど快眠ビジネスにおける活動を推進している。睡眠環境、睡眠習慣のコンサルティング、眠りに関する教育研修などを行っている。
著書及び監修:『なぜ一流の人はみな「眠り」にこだわるのか』(すばる舎)、「眠れてますか?」(幻冬舎)、「疲れないカラダを手に入れる快眠のコツ」(日本文芸社)、毎日新聞・快眠コラム「眠れてますか?」を343回連載等。

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