SILKの研究
Mar 15.2021

子育て中のお母さんから、多様なpurpose(在り方)を創発させる|杉原 恵|(一社)my turn

2020年3月までSILKのコンシェルジュとしても活躍し、母親となってから自身の生き方・働き方に向き合って起業された杉原さん。常に自分の「purpose(在り方)」を問い直し、内なる声と外(外部との関係性や社会のニーズ)との間を行き来しながら、”自分らしさを活かす”生き方・働き方を実践されています。自分の変化さえもオープンにしてチームメンバーとともに創発し続ける姿は、先行きが見通せない時代に生きる私たちに、自分らしく社会とつながり、自然体のサイクルで働く在り方を教えてくれます。

子育て中のお母さんから、多様なpurpose(在り方)を創発させる|杉原 恵|(一社)my turn

[目次]
1. 「子育て中のお母さんのスキルを社会につなぐこと」が仕事になった経緯
2. 自分の「purpose(在り方)」とビジョン。自分の内と外の往復で社会と呼吸を合わせる
3. 個人も企業も「purpose(在り方)」を伝えることで、新たな関係性を創造できる
4. さいごに

1. 「子育て中のお母さんのスキルを社会につなぐこと」が仕事になった経緯

私が2017年に”my turn”を立ち上げたのは、ライフスタイルが変わっても「自分を活かして生きる」ことが社会にも喜んでもらえる、ということを実感したから。新卒で入社した会社に在籍しながら結婚・出産を経験し、自身の生き方や働き方にモヤモヤしたことがきっかけだった。

仕事の肩書き、収入がなくなる自分に誇りを感じられなくて、日常の中で何をどうすればいいのかもわからなかった。時間に追われず子供といられることを幸せだと感じる気持ちよりも、自分の未来への不安の方が大きかったかもしれない。この時の私は「どうせ私はCA(キャビンアテンダント)以外の仕事なんてやったことないし、できない」という思考にとらわれていた。

そのとき、たまたま紹介いただいた産後初めての仕事が、現在SILK所長を務める大室悦賀氏の研究室でのアシスタント業務だった。慣れない仕事に苦労しながらも、社会の仕組みを知ることができ、前職のような組織の中だけにいたら出会えなかった人や視点に沢山触れさせてもらえた。数年して第二子を出産した時に、第一子の時の不安でいっぱいだった状態から、自分のマインドが大きく変化していることに気づく。

その後、さらに視野を広げる機会をもらい、2016年から京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)のコンシェルジュとして働き始めた。SILKでの経験からも、不慣れな仕事でも、社会との繋がりが自分の心を豊かにしてくれる、と実感した。

新しい仕事に慣れ始めた頃、周りのお母さんたちに目を向ける余裕が出てきた。自分が感じていたモヤモヤの真っ只中にいる女性たちに、素直に自分が経験してきたことを共有することで、彼女たちの生き方を豊かにしたいと考えるようになった。

2. 自分の「purpose(在り方)」とビジョン。自分の内と外の往復で社会と呼吸を合わせる

● 自分たちの”楽しい”が原動力だった初期の気づき

その後、すぐに動き出し、最初は、身近なお母さんたちとの雑談をきっかけに、イベントを開催し始めた。自分のため、家族のためだけにアクセサリーや洋服、お菓子を作っていたお母さん達が集まり、自分たちが主役になって楽しめるイベントを開催した。みんなが自分の好きなことを持ち寄ったイベントは大盛況で、出店したお母さんたちのイキイキした笑顔に、言葉では表せない可能性を感じた。

ひとまずお母さんたちとの想いとともに走り始めた私は、ものづくりはできないけれど場をつくることにワクワクする、という自分の新たな一面を知った。動き始めてみて、ライフスタイルが変化する女性たちは、社会に繋がっている実感があれば、誰かに依存せずとも自立できるんだと確信し始めた。このときの確信が、私がmy turnとして【自分を活かして生きる】ことを突き詰める最初のきっかけになった。

イベントは、やりたい時にやりたい人が集まり開催するスタンスだったが、不定期でも続けているうちに、それぞれのお母さんたちにファンが付くようになり、お客様との間に信頼関係が築かれていった。しかもそれは、出店者とお客様ではなく、もはや「仲間」に近い関係性になっていた。

そのようなイベントを続けているうちに、数年後にはmy turnに関わってくれるお母さんは30名を超えていた。各メンバーのライフスタイルは常に変化し続ける中、どこかで無理をしていたメンバーのフラストレーションが見え始め、自分自身の中にも違和感がたまってきた。これまでは自分たちの「楽しい」をベースに想いを形にするイベントを実施し続けていたものの、単なる手段に過ぎないはずだったイベントの企画運営が目的になっていないか?そんな違和感を無視できなくなり、もう一度自分が旗を上げ直すことの必要性を感じた。

● 「捉え直し」のプロセスと再出発

違和感に直面したときに私がとった行動は、メンバーに向けて、my turnを通して私が実現したい未来を伝えることだった。一緒に足並みを揃えながらイベントを企画運営する杉原という存在から、自分が下にいて皆の好きなことができるように支える、サーバントリーダー※になりたいと伝えた。その結果、離れたメンバーも出てきたが、12人のメンバーと再出発した。私にとって、自分と仲間が楽しくイキイキ何かをするというそれまでの活動の枠組みを越え、もう一つ外側の「社会」に目を向け始めるきっかけとなった。

※サーバントリーダー:人間が本能的に持つ奉仕したいとう感情を生かして、人から信頼を得て導くことのできるリーダー

そして、この時期のもう一つの大きな気づきは、「捉え直しのプロセスを踏むこと」の重要性だった。企画を実施する中で出会った「外との繋がり」を通して、新たな自分自身の在り方や価値を問い直し、自分やメンバーの活動が、社会に本当に喜ばれるものになっているかを考えるようになった。

このようなプロセスを経て、my turnの在り方がまた、ひとつ明確になった。「未来を描きながら、今を生きること」(バックキャスティング)の大切さを実感した。

それ以降、チームとしてのmy turnの在り方を、より明確に周りの方に伝えていくようになった。そうすることで出会ったのが、my turnの新たなパートナーとなる、京都市ソーシャルイノベーション研究所フェローの福冨氏だった。

● 起業、そして社会と呼吸を合わせるということ

対話を通して福冨氏の思考を学び、彼からの問いかけによって、今までは気付かなかった自分の可能性に自信を持つことができた。それは、新たな自分に出会えた感覚だった。対話を繰り返すことにより、アイデアを具現化することができ、自分のやりたいことを実現するためのエネルギーが湧いて来た。そこから5ヶ月後には、一般社団法人を立ち上げた。

イベント開催から始めた初期の頃には、my turnを法人化するなんて想像もしていなかった。仲間と一緒に進むことが安心感につながり、新たな一歩を踏み出せたこと、モヤモヤからスッキリに向かうコツを伝えたい想いが強くなり実現できた。

これが、事業の一つ、my turn塾の始まりだった。事業化はあくまで手段ではあるが、社会に喜ばれるものが何か、少しずつ見えてきたこともあり、自分がやる意味をより感じるようになっていた。

起業に至るまでのプロセスでわかったことは、自分がどういう人間か、どうありたいかを伝えていくことの大切さ。同じ未来を見ている人に見つけてもらい、それぞれの視点を融合させていく。共感できる仲間の視点を武器にすることは、自分が実現したい未来への確実な道になるかもしれない。だからこそ、私たちのイキイキがひとりよがりなものではなく、きちんと「社会と呼吸を合わせておく」必要があると感じている。

自分自身の固定化された視点や経験だけを頼りにしていては、めまぐるしく時代が変わる中で、いつか社会に合わないものになっていくのではないか。自分たちの軸をぶらすことなく、社会と呼吸を合わせていくこと。そのプロセス自体を楽しみながらやりたい、と思い行動してきたが、同時にその行動が社会につながり、喜んでもらう生き方になってきた。仕事と生きることが重なったと実感している。

そして今、気付けば私自身もプレイヤーになっていた。2年前は、モノを作り、サービスを生み出す者だけがプレイヤーだと思っていたが、自分自身もコミュニティをデザインするプレイヤーとして、多様な方々との融合を楽しむスタイルに変化した。自分起点でアクションを起こし続ける中で、仲間と共通のビジョンが生まれ、自分の世界観・想いと仲間や外からの見え方が交差するようになり、社会にも喜んでもらえる。すると、それぞれのプレイヤーが役割を担いはじめ、組織や既にある役割に自分を当てはめるのではなく、自分自身が動き仲間や社会とつながることで、自己組織化※していったのだ。

※自己組織化とは、物質や個体が、系全体を俯瞰する能力を持たないのに関わらず、個々の自律的な振る舞いの結果として、秩序を持つ大きな構造を作り出す現象のことである。(Wikipediaより)

3. 個人も企業も「purpose(在り方)」を伝えることで、新たな関係性を創造できる

物や情報が溢れ、予期せぬウィルスも現れた今、今までのやり方や長年の経験を頼るだけでは、資金力等の規模にかかわらず、個人も組織も生き残れないと感じている。むしろ、考え方ややり方次第で、個人起点の事業でも大企業と対等に勝負できる可能性があると予感している。

個人がより活きる時代が来たとき、自分自身を表現するためには準備が必要だ。自分の感情(喜怒哀楽)に蓋をして生きてきたなら、なおさら。正解のない時代が来ることを予想しながら今を生きる人と、今までのルールや経験だけに頼り生きる人では、未来は大きく違うはず。この数年でそのことを強く実感し、「自分はどうなりたいか?そのために今、どうありたいか?」ということを、自分にもmy turnメンバーにも常に問うようにしている。つまり、自分自身の「purpose(在り方)」を問い続けること。個人だけでなく企業も、自社の存在意義を伝えることが、新たな関係性の創造につながる。

my turnの組織としてのpurposeは、自然と人間の社会生態系を創造するチームであり続け、「心の豊かさ」をカタチにして次世代につないでいくこと。

そのpurposeを実現するための一つの手段として始めたmy turn塾では、森などの自然の中で自分のありたい姿をプレゼンしたり、社会の温度感をインプットしたり、自然の摂理を体感することを通して、自然体がどういうものかを体感するプログラムを実施している。単に自然に癒される、という感覚ではなく、もっと深い部分にアプローチしていくための問いを投げかける。本を読むだけではわからないことを自然から学び、自身にも問いを立てるプログラム。そのサイクルを自分の事業にも活かしていく。自然に触れることは、私たちの生き方そのものを豊かにしてくれると感じている。

my turnから生まれた「モヤモヤ→スッキリ(自分の自然体を知る)→イキイキ(自分を活かす)」という考え方は、まちづくりや企業とのコラボレーションにも活かされている。

4. さいごに

特にこの1年で、自分のやりたいことを多くの人に伝えてきた結果、新たな自分に気づき、自分を活かして生きることができるようになってきた。また、周りの人たちがmy turnをきっかけとしてイキイキと変化していく姿を見てきた結果、my turnの人と社会をつなぐ活動は多くの人に喜んでもらえることがわかった。それが私の本質であり、人生を通して実現し続けたいこと。そんな自分の感情に気づき素直に行動すれば、組織にいても、個人でも、関係なく、自分の在り方を確立できると思っている。

私の場合、最初から法人を立ち上げようとか、組織とはこういうものだからとか、社会貢献をしよう!ということは考えていなかった。もし、既存の枠組みから考えていたら、間違いなくこの5年間はモヤモヤしたままだっただろう。常に走りながらつまずきながら、肌で感じることを大切にして、実現したい未来に向けて動き続けた。軌道修正や遠回りもまた貴重で、自分だけができる体験だと捉えている。

はじめから沢山の失敗をし、沢山の人のあたたかみも肌で感じたからこそ、その度自分の在り方に立ち返り、またチャレンジし続けることができた。そして、衣食住遊学の垣根なく自分を活かし携わることで、「心の豊かさ」、つまり私たちのライフスタイルそのものが、ヒト・モノ・サービスを通して事業になっている。

ビジョンの実現に向けて、手段はどんどん増やしていきたいし、メンバーのスキルもやることも変化していっていい。しなやかに、時代やライフステージの変化を楽しみたい。楽しむためには、決して楽な道を選ばずに、チームワークを越えるトラストワーク※で分かち合い、『個であり共である』my turnを進化させていきたいと思う。

※信頼をベースにしたチームづくり、生活者(お客様)との誠実な関係性を保つこと。my turnの行動指針になっています。

そのためには、私たち子育て中のお母さんだけがイキイキするのではなく、身近にいる家族や地域の方、地域企業の皆さんに私たちを知ってもらうことにも取り組みたいと考えている。難しいことを頭をひねり考えるのではなく、自然と文化に感謝しながら、自然体で自分を活かして生きること。それこそが、社会貢献であり、well-beingな社会の実現につながっていると私たちは信じている。


 


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photo:杉原 惠(すぎはら めぐみ)
杉原 惠(すぎはら めぐみ)
一般社団法人my turn 代表理事/コミュニティデザイナー

子育て中のお母さんのスキルを社会につなぐ場や機会をつくる仕掛人。客室乗務員(CA)として勤めたのち、出産後、退職。肩書も収入もなくなり、女性のキャリアの活かし方に悩んだ経験から、2017年起業。 子育て中だからこその視点や時間の使い方に価値を感じ、企業から業務を請け負い、育児中の元CAが在宅で働ける仕組みをつくる。 一方、自分の周りに、ものづくりなどの高いスキルを持った母親が多いことに気づき、彼女たちが活躍できる場をつくる。 定期的にマルシェを開催したり、企業と協働して商品開発などにも取り組む。
女性として、仕事も子育ても自己実現もオシャレも諦めたくない母親たちが集まるmy turnコミュニティで、企業や社会、地域で活躍できる場を多数生み出している。子育て世代の女性の孤立や貧困を生み出さないビジネスモデルの確立に向けて日々挑戦中。

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