SILKの研究
Mar 4.2021

生き方と働き方を分離しないために大切な「働く場」|阪本 純子

私は、2015年にイノベーション・キュレーター塾1期生として学び、SILK主催の「多様な働き方・生き方」をテーマとするイベントには都度参加してきました。当時、総務人事として勤務していた所属会社やクライアントへの伝播も、微力ながら続けてきました。その後、2人目の子どもを出産し、半育休や子連れ勤務など、当時としては珍しい働き方を経験することができました。2018年度からSILKコーディネーターとして活動しており、「京の企業『働き方改革チャレンジプログラム』」の運営にも携わりました。

今回のコロナ禍において、テレワーク、オンライン会議、副業、複業、ワーケーション、地方移住など様々な変化が起こり、多くの人が切り離していた「仕事」と「生活」の融合が強制的に進みました。10年以上前から存在する「ワークライフバランス」という言葉がこれまで十分に浸透しなかったのは、気になりつつもあえて見ないようにする人が多かったのだと思います。「いいことだというのは分かってるけどね」と言いながら、従来の働き方の延長線上での効率化をつい優先してしまう。そんな従業員や経営者の声もたくさん聞きました。

SILKで発信してきたことを振り返りながら、「働きたくなる地域企業」のある社会について、私自身が今思っていることも含めて記したいと思います。

生き方と働き方を分離しないために大切な「働く場」|阪本 純子

[目次]
1. 多様な働き方の可能性は、選択肢を知ることから
2. 区切らない、曖昧さから受容力を広げていく
3. 受容力を広げるための「働き方を混ぜる」具体的な取組
4. 区切りを緩めて曖昧さを認め合う

1. 多様な働き方の可能性は、選択肢を知ることから

2016年、SILKは「多様な生き方・働き方」をテーマにイベントを実施していました。私はそこで初めて、働きづらさを感じる人たちの思いに触れました。また、障がい者雇用や子連れ出勤が、当事者だけでなく組織全体に変化をもたらし、社会への働きかけにもつながることを知りました。そのイベントには、会社の管理部長や社長をお誘いして一緒に参加していました。イベントの内容に共感していただき、私自身も含めて、会社にとって新鮮で大きな気づきになったと思います。その後、私自身も第2子を妊娠出産します。少人数の組織だったため私が完全に休業してしまうのは難しいこと、そして、私自身も育児だけの生活が長くなるのが不安だったこと。この2点について考えた結果、子連れ出勤についての話を聞いていたことで、半育休・子連れ勤務という選択をすることができました。

【過去の記事】

▶︎「ダイバーシティの実現による働き方改革」
https://social-innovation.kyoto.jp/connection/997

▶︎あらゆる働き方を考える「多様な生き方・働き方」をつくるために
https://social-innovation.kyoto.jp/connection/1211

2018年に「京の企業『働き方改革チャレンジプログラム』」を実施した際には、成澤俊輔さんや光畑由佳さんにもアドバイザーとしてお話しいただきました。経営者と従業員の皆さんに、まずは知ること、選択肢を知るきっかけをつくることが大切だと、感じていただけたと思います。

▶︎京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」記事一覧
https://social-innovation.kyoto.jp/learning/cat/haratakikata/page/2

自分から動いて情報を取りに行かなければ、新しい選択肢の存在には気づけません。「当たり前」と思い込んでいたり、「いいことなのは分かっているけど」「現実的にはいろいろと難しいよね」と諦めてしまったりと、多くの人は変化を恐れ、現状維持を好みがちです。企業の責任として、リスク管理を気にすることも多いかと思います。

そこで私たちは、従業員も経営者も一緒に対話しながら考える場と、規模や業種の違う複数企業のメンバーが一緒になって考える場を設け、その後の実践につなげるというプログラムをつくりました。対話を通して、従業員の方々は、働き方のルールは自分たちではなく経営者がつくるのが当たり前だという自身の思い込みに気づきました。一方、経営者の方々には、従業員に対して「もっと自主性を持って意見してくれたらいいのに」と思っていても、本人たちには伝わっていないことを感じていただきました。

2. 区切らない、曖昧さから受容力を広げていく

私たちは生活のあらゆる場面で、効率化を考えて「区切る」ことに慣れています。「働く」を考える際にも「区切り」がたくさんあります。「経営者」「従業員」という区切り、育児休業や介護休業などの「休業」と「勤務」の区切り、「健常者」「障がい者」という区切り、そして何より「生活」と「仕事」の区切り。

現代は雇用されて働く人が社会の大部分を占めており、その中でも、地域企業で働いている人の割合は高いです。1日の中で多くの時間を占める仕事。「仕事」が「生活」と密接に関わっていることを改めて意識して、視線を上げてみると、働き方を俯瞰して見ることができます。

働き方改革は、経営者や起業家、フリーランスだから出来ることではありません。雇用される生活者であっても、経営者への働きかけや自身の行動によって「働く場」の受容力を広げることができる環境に、少しずつ社会が変わってきたのではないでしょうか。

将来的には、教育が変わっていくこと、デジタルネイティブ世代が社会の中心で活躍することにより、世の中がさらに変わっていくと思います。しかし、目先のことを考えると、私を含めた団塊ジュニア世代が労働人口の多くを占めていて、社会保障や、子育てと介護を同時に担うダブルケアなどの課題が増加しています。このコロナ禍を契機にして、当事者意識を持って個々が受容力を広げる取組みを強く進めていかないと、ますます生きにくい世の中になってしまうという危機感があります。

3. 受容力を広げるための「働き方を混ぜる」具体的な取組

個人よりも企業の力が大きい現代社会においては、仕掛けづくりが大切です。最近、行政でも民間でも、「働き方を混ぜる」ための仕掛けが増えてきています。あえて、そこに乗っかってみることも大切ではないでしょうか。「区切りを緩める」「働き方を混ぜる」きっかけになると感じる、行政による取り組みを下記にご紹介します。

■京都府 雇用シェアリングモデル事業
コロナ禍で出てきた施策ですが、環境が変わっても働き続けたいという意欲を活かすために、必要な考え方だと思います。現役50年時代、企業側が雇用を守ることだけでなく、こうした取組によって従業員が新たに働く機会を得ることも有効ではないでしょうか。異業種の新しい仕事に挑戦することで、経験の幅を広げ、成長できるはずです。https://www.pref.kyoto.jp/koyou/news/worksharing.html

■京都市 地域企業「担い手交流」チャレンジプログラム
2019年から京都市が公益財団法人産業雇用安定センターと実施している、大企業から地域企業への「在籍出向」を促す制度です。人材交流を促進し、企業間連携の強化を図るための制度として書かれていますが、これも「働き方を混ぜる」取組だと私は感じています。
https://kyoto-ninaite.com/about/

■京都府 仕事と育児の両立体験プログラム
京都府が2018年から継続して取り組まれています。「大学生と混ぜる」「働く場と生活を一体として大学生が体験する」ということに価値があると思います。「働く場」でインターンをするのではなく、働く人(現在は母親が中心、いずれは父親にも広がっていくと思います)について体験するという点が画期的な取組です。働く側にとっても、大学生と混ざることで違う世代を知るきっかけになっていると思います。
https://pref-kyoto-kodomohagukumu.jp/worklifebalance/

その他、私自身が育休中に参加した「混ざる」実験的な取組として、「ぷちガチ育休MBA」(現在は、「子連れMBA」に名称変更 https://kodure-mba.puchigachi.com/)で行っていた活動も少しご紹介します。
「育休中の会社員ママと地域の中小企業が混ざる」取組でした。これまで都会の会社と家の往復で、夜遅くまで働く生活習慣だった人(主に母親)が、育児休業期間中は地域で過ごす時間が増えます。すると、家庭での食生活の重要性に気づき、地域の問題に触れる機会が増えます。価値観の変容が起こりやすい時期であり、身近な生活と関係する社会課題に改めて気づく時期でもあります。食品関連の地域企業と共に、中小企業の経営者の話を聞いて、その会社の課題解決に取り組むプロジェクトを実施しました。

【クラウドファンディングにも挑戦】
https://www.makuake.com/project/ikukyu-mba/

自分の住んでいる地域の中小企業が、子どもたちの未来について真剣に取り組んでいることを知る機会にもなりました。また会社にとっても、社内への刺激やマーケティングの機会にもなり、その後の採用活動まで、お互いに良い影響を与え合うことができました。当時を振り返ると、先進的な仕掛けだったと思い返しています。

4. 区切りを緩めて曖昧さを認め合う

このコロナ禍で、地域で過ごすことが増え、見える景色が変わった方も多いのではないでしょうか。在宅時間が増えると、昼間の訪問介護の車が多いこと、保育園のお散歩風景、近所のお店や飲食店の様子などなど、これまであまり気にしていなかった「働く場」の状況が見えてくるきっかけになります。私自身も、改めて気づいたことがたくさんありました。
例えば、ボランティア活動としてはなく、「働く場」として週5日のうち1日だけでも、地元の商店で働く、資格や経験があれば近所の保育園で働く、新たな知識をつけて近所の訪問介護事業に携わる、といった兼業・複業、あるいは雇用シェア、従業員シェアのような取組が当たり前に選択できるようになれば……。個人としての経験値だけでなく周囲への受容力と関心が高まることになり、地域コミュニティのつながりが増し、関係性が広がり、セーフティネットの強化にもつながるんじゃないかという妄想が広がります。

加えて、遊びに対する意識も変化したと言われています。私自身は正直、雇われる立場で「遊ぶように働く」ことは、理想的だけど現実的には難しいよね~と思ってしまうことがありました。でもこのコロナ禍で、通勤をしなかった数ヶ月の間に、仕事と遊びの境界線もあいまいになってきたのではないでしょうか。生きること、働くことに遊びの要素が必要なことも、改めて考える機会になったと思います。

以前からあった兼業・副業・複業についての話題も、一気に広がってきました。労働時間管理や労災補償の在り方についての法整備もようやく進んできました。また、企業側が負う70歳までの雇用確保の努力義務は、いずれ義務化されるでしょう。働く環境だけでなく生活環境も変わる中、関係性を広げていくこと、お互いさまという意識で受容力を高めていくことの必要性を感じています。あいまいな領域を認め合えば、もっと心豊かに生きられるのではないでしょうか。そこで認め合う領域として大切なのが「働く場」であると思います。


 


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photo:イノベーション・コーディネーター 阪本 純子
イノベーション・コーディネーター 阪本 純子
中小企業診断士/イノベーション・キュレーター塾 第1期生
アクセルコンサルティング株式会社 経営コンサルタント

福岡県出身、大学卒業後、婦人服製造卸業にて商品企画を担当、転職後、通販会社の販売戦略室にてアパレル部門のカタログプランナーとして顧客分析・購買分析等、マーケティング戦略に関わる業務に従事。その後、JICAボランティアとしてケニア国社会開発省に赴任、小規模事業者の支援を実施。帰国後、出産を経て、人材サービス企業の総務人事担当と中小企業診断士の複業を実践。その過程で、イキイキ・わくわくできる組織づくりの大切さと難しさを実感する。その後も働きがいのある組織にこだわり、一人一人が存在価値を感じて成長する喜びを実感できる社会、未来への関心を高めて次の世代につなげたいと思える世の中を実現したい思いで業務にあたっている。2人目の育休を経て2018年4月より、現職。再び、中小企業診断士とイノベーション・コーディネーターの複業で、実現したい未来に向けて取組中。

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