SILKの研究
Jan 29.2021

伝統産業とサスティナビリティ①|石井 規雄

茅葺きは縄文時代から続く、最古の屋根の一つです。縄文時代の竪穴住居も茅葺きでできており、基本的な技法は現在までほとんど変わっていません。これまで2000年以上に渡って続いてきたからには何か理由がある。サステナビリティの原点は茅葺きにあるのではないか?建築的視点からではなく、茅葺きを多面的に捉え、これからの持続可能な社会のヒントが紡ぎ出せないかと思い、今回のコラムを執筆することにしました。

伝統産業とサスティナビリティ①|石井 規雄

[目次]
1. 茅葺き職人が経営コンサルタントになるまで
2. 茅葺きの世界からみえる、企業経営やサスティナビリティのヒント
3. 伝統産業での経営資源を持続化させる仕組み
4. さいごに

1. 茅葺き職人が経営コンサルタントになるまで

なぜ私がこのテーマでコラムを執筆するのか。まず簡単に私のキャリアについて話しておきたいと思います。

就職活動の時、私は茅葺き職人を志しましたが、新卒で東京の経営コンサルティング会社に就職し、コンサルタントになりました。全ては親方の言葉がきっかけです。

大学4年間、縁あって茅葺きに出会い、課外活動のほとんどを茅葺きに捧げました。そのまま茅葺き職人になるものだと思っていましたが、採用面接で不合格になったのです。不合格の理由はこうでした。

「茅葺き業界は今後ますます縮小し、将来この仕事が残っているかどうかわからない。本当にいいのか。この仕事に戻って来たければいつでも歓迎する。しかし今ではない。」

「新卒という一生に1度の機会。他の世界を見て社会を経験して、それでも茅葺きに戻ってきたければその時でもいいのではないか。」

そこで私は経営コンサルタントになることを決めました。いつの日か、茅葺き業界の新たな市場創造・価値創出を図ることができればと考え、コンサルティング業界に足を踏み入れたのです。

そして、5年間の東京生活を経て、中小企業診断士の資格も取得し、再び茅葺きの世界に戻ってきました。しかし、修行を始めた3年後、衝撃の事実に直面します。職人としての致命的な欠陥である茅アレルギーが発覚し、職人の道を断念せざるを得なくなったのです。

正直、この先どうすればいいのか、人生の大きな目的のようなものを失って、目の前が真っ白になりました。数ヶ月悩みましたが、これまでの自分の人生を振り返った時、きっと自分にしかできないことがあるだろうと考え、職人という道ではない違う形で茅葺き業界に関われたらと思うようになりました。

同時に茅葺きの世界で感じた経験は、きっと現代社会や企業経営のヒントになる。直感的にそう感じ、再び経営コンサルタントの道に戻りました。そして縁あってSILKのイノベーション・コーディネーターに就任します。

2. 茅葺きの世界からみえる、企業経営やサスティナビリティのヒント

茅葺きは縄文時代から続く、最古の屋根の一つであり、2000年以上に渡って受け継がれてきました。

これまで茅葺きが生き残ってきたのはなぜか?

この問いを考え抜くことで、現代の企業経営におけるサスティナビリティのヒントが得られると考えています。そして一つの答えにたどり着きます。

「循環型の資源を利用し、人々の生活(営み)、自然環境と深く結びついていたから。」

これが私の考える、茅葺きが生き残ってきた理由です。自然資源の利用の観点から捉えると、茅葺きは極めて環境効率性が高い産業だと言えます。茅葺き屋根の材料となる茅※は、環境に負荷をかけずに効率的に採取できるからです。

※茅:ススキやヨシ等の屋根に葺く草系の材料の総称。

私はこれを「茅葺きの資源再利用・再生産システム」と名付けました。

・茅葺きの資源再利用・再生産システム

ススキやヨシは多年草の植物ですが、地下茎で繋がっており、刈り取った翌年には新しい茎を伸ばします。晩秋から冬にかけて再び刈り取られます。春から夏の生育期間は、特に手間のかかる手入れは必要なく、自然に育っていきます。

そして、刈り取られた茅は乾燥させますが、冬場の雪囲いに活用されることもあります。翌春以降には、茅は茅葺き屋根の材料として使用されます。葺き替えという茅の交換時に出てくる古い茅は、田畑の堆肥として重宝され、農作物の生産に活用されます。

つまり茅は1年に1度勝手に育ち、衣食住の食と住に密接に関わってきた、一切の無駄が出ない資源だと言えます。このように茅葺きを中心とした資源の再利用・再生産システムが存在していました。

企業にとって経営資源は、事業活動をする上で必要なものであり、経営資源の有無や量が企業発展の制約条件になっているケースをよく見かけます。自社の経営で必要な経営資源を生み出す取り組みも必要ではないでしょうか。

近年、サーキュラー・エコノミー(循環経済)※というキーワードが認知されつつあります。事業の中でいかに循環の環を作っていくかが、これからの持続可能な経営活動の鍵を握ると考えていますが、そのヒントは日本人が昔から大切にしていた資源を大切に無駄なく使う心遣いにあるように思います。

※サーキュラー・エコノミー(循環経済):従来の「大量生産・大量消費・大量廃棄」のリニアな経済(線形経済)に代わる、 製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小化した経済を指す。

茅は資源という側面で見たときに、極めて環境効率性の高い資源という話をしました。次に、茅の使用がもたらす環境への副次的効果を説明します。

茅資源の調達は、山や川でススキやヨシを刈り取ることで行われます。そこは人々が自然や動植物と共生してきた里山と言えます。里山と人々は相互扶助のような関係だったと考えています。里山は人々が茅や薪などの資源を調達する場所ですが、そこには人々が入ることで守られてきた生態系があります。高度経済成長以降、環境資源に恵まれた里山は効率を追求するあまり、化石燃料にその役割を奪われてきた側面があると思っています。

過度な効率性を追求することで得られる利便性もありますが、その一方で人々が手間と時間をかけて調達していた循環型資源≒茅を使用する機会が減少しました。その結果、里山の活用が減少し、人と自然が共生してきた持続可能な里山の循環型サイクルが消失しつつあります。これも効率性を追求することの副作用の1つと言えるのではないでしょうか。

時代が変化している現代において、過去の生活に戻るというのは現実的ではありません。しかし、過去の人と自然が共生していた時代にこそ、今私達が直面している課題を解決するヒントが隠されているように思います。

3. 伝統産業での経営資源を持続化させる仕組み

企業経営にはヒト・モノ・カネ等と言われるような経営資源が必要です。中でも重要なのが人材育成だと思います。事業を継続していく上でも、その担い手の確保と育成が不可欠です。伝統産業での技術承継は「人を育てる仕組みづくり」と言い換えることができます。今回は、経営資源を持続化させる仕組みとして伊勢神宮の式年遷宮を紹介します。

伊勢神宮では、20年ごとに正殿を始め全ての社殿を造り替えて神座を遷しています。この行事は「式年遷宮」と呼ばれ、盛大な祭りが催されます。690年から現在まで62回続けられ、1300年以上の伝統があります。寺社建築として古くから残るものは多数ありますが、20年に1度の造り替えを前提とした建築は非常に珍しいです。

式年遷宮を行う理由には諸説ありますが、その一つとして、技術を継承するために20年という期間が設定されたという説があります。技術を受け継ぐには、当然その技術を教える場が必要です。伊勢神宮の社殿は他社では見られない唯一神明造という建築様式が採用されています。他では造ることができない建築のため、その建築技術を将来に渡って継承するために式年遷宮という仕組みが設けられたのではないでしょうか。

伊勢神宮の社殿の多くは茅葺き屋根でできています。前々回の遷宮からは、茅葺き職人の減少に伴い、全国から職人が集まって屋根を葺き替えていますが、それ以前は三重県内の職人に限られ、その技術は門外不出だったそうです。

前回の遷宮を経験した者が未経験者の若手に技術を伝え教えることで、その技術は1300年続いてきました。茅葺き業界では、3回以上の遷宮を経験した職人はいないそうです。初めて伊勢神宮の社殿を葺き替える職人は、次の式年遷宮を見据えて、必要な技術を身につけます。現在でも詳細なマニュアルや作業指示書は残されておらず、職人の手に残る感覚と記憶が全てです。

式年遷宮は、ただ建物を建てるだけなく、次の遷宮を担う人材を育成する場でもあり、「モノを造るのではなく、ヒトを育てる」ための仕組みと言ってもよいでしょう。このようにして、神殿と職人、茅場を持続化させるための仕組みが出来上がり、今日まで伝統が受け継がれています。

そしてもう一つ紹介したいのが「結い(ゆい)」です。結いとは、集落内での屋根の葺き替えや田植えなど共同で行う作業を言い、労力が必要となる作業をみんなで協力して助け合う制度のことです。結いは、住居や農業、里山、集落の共同体を持続化せるための仕組みと捉えることができます。

日本の集落で長らく維持されてきた、人と人の助け合いの仕組み。これがあることで、人と自然の助け合いが成り立ってきたと言えるでしょう。2000年以上の歴史がある日本の協働の原点であり、茅葺きが受け継がれてきた仕組みそのものといっても過言ではありません。

今では、結いによって茅葺き屋根を維持継承している地域はほとんど見かけなくなりました。社会環境の変化によって、集落内だけでは葺き替えを行う人や材料の茅を確保できなくなってきました。ただ、私はこの結いの仕組みには、現代の様々な課題を解決するヒントが眠っているように思います。結いは、日本型オープン・イノベーション2.0の仕組みと言えるのではないでしょうか。

4. さいごに

多様な主体の連携による新しい結いのカタチを作っていければ、これからの持続可能な社会の実現に繋がっていくように思います。そのようなことを想いながら、「これまで茅葺きが生き残ってきたのはなぜか?」という問いを深めて、現代の企業経営におけるサスティナビリティのヒントを得ていきたいと思います。

今後も、伝統産業とサスティナビリティをテーマに取り上げていきたいと思います。ご期待ください。


 


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photo:イノベーション・コーディネーター 石井 規雄
イノベーション・コーディネーター 石井 規雄
中小企業診断士/イノベーション・キュレーター塾 第2期生
アクセルコンサルティング株式会社 経営コンサルタント
山城萱葺株式会社 取締役

1986年奈良県生まれ。立命館大学経営学部に在籍中に、茅葺き屋根に魅せられて職人の道を決意。茅葺きの新たな市場創造を図り、業界を活性化するために、東京のコンサルティング会社に経営コンサルタントとして就職。その後、念願だった茅葺き職人の修行を始めながら、コンサルタントとして独立して複業を開始する。しかし、茅葺き職人として致命的な疾患が発覚し、その道を諦めざるを得ないことに。現在は、「企業と地域・社会・環境が共生する未来」の実現のために、経営コンサルタントとして日々奮闘しながら、茅葺きの新規事業の立案や経営管理業務を行っている。2018年4月よりSILKのイノベーション・コーディネーターに就任。経営コンサルタントと茅葺き、SILKの3つの仕事を掛け持つパラレルワーカーとして活躍中。

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