これからの1000年を紡ぐ企業認定
May 21.2018

コト(技術)×モノ(意匠)×ミチ(販路)。モノのプロデュースから販路までをデザインする「セメントプロデュースデザイン」

デザインと聞くと、何をイメージしますか? 見たこともないお洒落なプロダクトでしょうか? それとも思わず足を止めてしまうような、斬新な広告ですか?

一般的にデザインとは、みなさんがイメージするように印刷物や商品をつくりだすこと。

少し見方を変えてデザインをとりまく商流を見てみましょう。こうしたデザインは、クライアントの企業がデザイナーに発注する時に仕事として生じるものです。つまり、デザインとは概ねいつも請負い仕事。そして一般的には、デザインした商品をクライアントに納品した時点でゴールです。

しかし、今回記事をお届けする「有限会社セメントプロデュースデザイン」(以下、セメントプロデュースデザイン)は、商品をデザインするだけに留まらず、自ら販路までをもつくり出す異色のデザイン会社。一体なぜ「モノ」のデザインだけに留まらなかったのか? そしてデザインによってどんな未来を目指しているのかを代表の金谷勉(かなやつとむ)さんに伺いました。

コト(技術)×モノ(意匠)×ミチ(販路)。モノのプロデュースから販路までをデザインする「セメントプロデュースデザイン」

課題解決のためのデザイン

金谷さんは京都の美大の人文学部を卒業後、企画制作会社と大手広告代理店の制作会社に勤務。その後独立し、1999年に「セメントプロデュースデザイン」を設立しました。手がける仕事は広告、ウェブ、ロゴ、プロダクト、パッケージ、企業案内カタログ、冊子などグラフィックデザイン全般を一手に引き受けています。

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「セメントプロデュースデザイン」代表金谷勉さん。

そしてもうひとつの仕事は、こうしたグラフィックのデザイン分野だけではなく、日本各地にある地場産業の生産者たちとタッグを組み、地域の技術を活かしつつ新たにプロダクトをデザインし、それらを世に広く流通させることです。金谷さんはこうした活動を「みんなの地域産業協業活動」と呼んでいます。

金谷さんが日本各地のものづくりの現場と出会ったのは、起業して数年が経った頃。愛知県瀬戸市で、陶器の型をつくる会社との出会いが最初でした。

瀬戸といえば、「日本六古窯」のひとつ。1300年の歴史を持つ焼き物の産地です。産地でのものづくりは、分業によって成り立っています。当地でも窯、釉薬(ゆうやく)、素地、型をつくる人などが分業して行っています。

ちなみに、陶器はろくろを回して成形するイメージを持つ人が多いかもしれませんが、ひとつの製品を量産する場合、つまり私たちが一般的に生活で使う食器は、石膏などでつくった型に生地を流し込み成形する技法でできているものが多いです。

型をつくる人は、メーカー(問屋)から発注されて仕事を引き受けます。景気が悪くなり、メーカーが製造する陶磁器の量を減らすと、自ずと型づくりの仕事も減ってしまうのです。

型をつくる人だけに限らず、釉薬を扱う人、素地をつくる人、それぞれに仕事を受けているため、メーカーからの依頼が減るとこうしたすべての人の仕事、つまり地域の経済が縮小します。悲しいかな、それが製造業の実態なのです。

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金谷さん:もともとこの会社は干支の置物などの原型をつくっている会社でした。メーカーからの仕事の受注具合によって、会社の経営が左右される。さらに、今は海外の輸入製品が多く出回る時代です。

すると産地でものづくりをしている中小企業のほとんどは仕事を失ってしまう。そんな現場を見て、彼らが持つ非常に高い技術を活かしたい、世代も近い人たちが働いているし、何とかお手伝いしたいなと思いました。
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こうして生まれた「Trace face」。ニットの細やかな凹凸を表現するために職人が夜を徹して型を彫り上げました。型職人とのコラボらしい逸品です。

地場産業の現場の多くは先述の通り、分業によって成り立っています。ひとりの職人の職能が限られているとも言えなくはないですが、プラスの面を見ると、それぞれが非常に専門性の高い技術を持っているということ。

「ものづくり大国」日本では、各地ですぐれた技術が蓄積されているのです。しかし、価格競争や流通の問題などから、国産のモノが低迷しているのが現状です。

これまでの日本のものづくりを支えてきたのは、こうした中・小規模の企業。その数は日本の企業数の9割にも及ぶといいます。蓄積された技術とノウハウが伝承されることなく途絶えてしまっては、日本の経済そのものがどんどん縮小してしまいます。金谷さんは「みんなの地域産業協業活動」をとおして、こうした流れを変えたいと願っているのです。

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金谷さん:これまでの地場産業の商品の企画は問屋や商社が行ってきました。ところがいまは問屋が海外から商品を仕入れている。つまり、問屋から川下にいる生産者が全部ダメになってしまうのが現状です。となると、デザインだけでも解決できない。製造業とデザイン業の新しい関係づくりをしないと、と思ったんです。

かつて地域の地場産業は製造する人と、それを束ねる問屋がBtoBで製品を販売していました。市場を把握しているのも問屋。次にどんな商品を作るかを企画するのも問屋。景気が良い頃はつくればものが売れる時代。現代は市場にモノが飽和した状態。逆境の中、新たにモノを売るのは容易ではありません。
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「セメントプロデュースデザイン」がはじめて自社で制作したプロダクト「HAPPY FACE  CLIP」。

「セメントプロデュースデザイン」がはじめて自社で制作したプロダクト「HAPPY FACE  CLIP」。

実は会社を立ち上げた頃、金谷さんも経営を安定させるために自社企画で製品づくりをはじめました。デザインはできるものの、それを製造する工場もわからない。まさに手探りでしたが、大阪の町工場を訪ねるなどし、情報を収集したことがものづくりの現状を知るきっかけにもなりました。

こうした生の経験を持つ金谷さんだけに、柔軟な思考を持っています。

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金谷さん:瀬戸は確かに陶磁器の産地だけど、「器の産地」だとは思ってないんです。陶磁の技術はあるけれど、器をつくらなければいけないことはない。たとえばアロマディフューザーをつくったっていいじゃないですか。でもそういう考え方をする人は産地にはなかなかいない。

だから新たな商品が生まれてこなかった。でもそのままだと、海外から商品が流入して国内の陶磁器業界が弱った瞬間に、全体が弱ってしまう。誰かが新たな商流をつくらないといけないんです。
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瀬戸を皮切りに、各地からひっぱりだこになった金谷さんは、どんどん新しい商品を生みだしています。「みんなの地域産業協業活動」で誕生したほかの商品も見てみましょう。

<鯖江>メガネフレームの産地福井県・鯖江のフレーム業者とコラボして生まれた耳かき。メガネフレームの型を変形させて商品が生まれた。機材や部材、職人の技など現地にあるものを最大限に活かすことを大切にしている。

<鯖江>メガネフレームの産地福井県・鯖江のフレーム業者とコラボして生まれた耳かき。メガネフレームの型を変形させて商品が生まれた。機材や部材、職人の技など現地にあるものを最大限に活かすことを大切にしている。

<熱海> かつては900軒あった熱海の温泉街。宿屋がさびれると、内装業に従事していた人の仕事も減る。旅館やホテルの建具をつくっていた会社と協業して生まれた両面使えるまな板「face two face」。ここでも、彼らの既存の工具を使ってできる商品を考えた。

<熱海>かつては900軒あった熱海の温泉街。宿屋がさびれると、内装業に従事していた人の仕事も減る。旅館やホテルの建具をつくっていた会社と協業して生まれた両面使えるまな板「face two face」。ここでも、彼らの既存の工具を使ってできる商品を考えた。

<URUSHINASHIKA> 日本の里山に増え続けているニホンジカ。先駆的に対策に取り組む山梨県からの依頼で生まれた鹿の皮×伝統工芸の甲州印伝「URUSHINASHIKA」シリーズ。

<URUSHINASHIKA>日本の里山に増え続けているニホンジカ。先駆的に対策に取り組む山梨県からの依頼で生まれた鹿の皮×伝統工芸の甲州印伝「URUSHINASHIKA」シリーズ。

課題解決のためのデザインとプロダクトを次々と生み出してきた金谷さんは、2013年、ついに自らデザインした商品を販売するギャラリーショップを持つことになりました。しかし、金谷さんからはちょっと意外なひとことが。

表参道にある「コトモノミチ at TOKYO」。生活雑貨からステーショナリーなど、ものづくりの担い手との協業の成果がずらり。

表参道にある「コトモノミチ at TOKYO」。生活雑貨からステーショナリーなど、ものづくりの担い手との協業の成果がずらり。

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金谷さん:表参道に店を持ったんですが、実はいまだに店舗を持つことは自分の心の中では抵抗があるんですよ。
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もし物販で利益を出すなら、卸しよりも利益率のいい直営店を持つほうがいい。けれど、1店舗だけでは在庫がはけない。すると複数の直営店舗を持つ必要があり、今度はそのための資金が必要になる。しかし、店舗が増えると今度は店を維持するために商品をつくらないといけなくなる。でもこれは大量消費・大量生産のあり方を再びなぞるようなもの。

結局は価格が安い商品が売れて、生産者に安い工賃で仕事を依頼するという、デフレスパイラルに陥ってしまうのではないだろうか。金谷さんが目指しているのは、生産者も、それをデザインする側も、さらに消費者にとってもいい循環を生み出すこと。それがひいては日本の将来を健やかに保つ方程式なのです。

地域が抱えている課題

商品をその方程式に乗せることができたからといって、すべての問題が解決するわけではありません。地域のものづくりの現場はのきなみ後継者が不足しています。金谷さんいわく「伝統工芸の現場では、従事者の70パーセントの人が60歳以上、30歳以下が6パーセント」という割合とのこと。

伝統工芸の分野でも、地場産業の分野でも、仕事の基本的な割合は従来どおりの請負い仕事。自社企画の新しい試みをやってみたいと思っても、その時間をいつ割くのか。結局は働き手の自主性におもねるかたちになってしまい、「新しいことができる」と憧れの気持ちで入社した若者も、思った以上に修行期間が長く、なかなか続かないそうです。

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金谷さん:どんな世界も、自分がやりたい仕事ができるようになるまで数年はかかりますよね。その間、経営者は人を雇いながら修行の時間も担保しなくてはいけない。

修行の時間を17時以降にするのか、18時以降にするのか。ある工房では18時以降は工房を開放して、使いたい人が自主的に使えるということをやっています。が、現在の就労状況や規定の中ではNGになる可能性もある。各地色々な試行錯誤の中で伝統工芸の継ぎ手をどう育てていけばよいのか悩んでいます。
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金谷さん自身も、会社の未来を考え自分が培ったデザインのノウハウをなるべく広く伝えていく取り組みを行っています。

京都市伝統産業課の事業「京都いまのわ」では、仏具の木地職人とともに桜の花びらがたをしたぐい飲み「YOISAKURA」を開発。木材を削り出してできた「ぐい飲み」は海外の方へのお土産やギフトにぴったり。

京都市伝統産業課の事業「京都いまのわ」では、仏具の木地職人とともに桜の花びらがたをしたぐい飲み「YOISAKURA」を開発。木材を削り出してできた「ぐい飲み」は海外の方へのお土産やギフトにぴったり。

金谷さん:僕もあと15年もたったら現場のディレクターとしては、ピークは過ぎています(笑)。だからこれからは自分の仕事と同時に次の世代へ残せるものはメソッドとして残したいし、次の世代の事業承継や可能性のある事業はできるだけ可能性を見つけてそれらを担保して渡していきたいと思っています。

大学などで講師としても活躍する金谷さん。「京都リサーチパーク」では後継者育成のためのゼミを担当している。

大学などで講師としても活躍する金谷さん。「京都リサーチパーク」では後継者育成のためのゼミを担当している。

現在「セメントプロデュースデザイン」は大阪本社、東京、岐阜に支社を持ちつつ、産官学が連携しやすい京都でも、デザインができる新たな流れをつくっていきたいと考えています。

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金谷さん;これまでのように、グラフィックデザインのルーティーンワークでおつきあいできるのはありがたいですが、その会社さんのことをよく知るにつれ、京都が持つ伝統工芸の職人や技とつないで、職人も企業さんも「Win-Win」になる仕事を提案できたらいいなと思います。
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京都・嵐山にある「星のや京都」にて、期間限定で施設内の池の上に「納涼床」を設け、夏を楽しむ「納涼滞在」という企画があります。金谷さんはここで使われていた風鈴を京都産のものを使用するように提案したり、室内の什器や食器も他府県産のものではなく京都産に変更できないか提案しているそう。

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金谷さん:彼らは宿泊のもてなしのプロだけど、ものづくりのプロではないのです。そこで僕らが「こうした方がより良くなる」という提案をさせてもらったり、集客アップのためのコンテンツづくりを一緒に企画させてもらったりしています。目指しているのは、伝統の産業に新しい谷町(ひいきすじ)をつくる。つまり伝統を支えるようなビジネスのスタイルですね。
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長く続くモノの中に新しい風を吹き込み、新しいものの中に伝統を取り入れる金谷さん。その発想や着眼点は、すでにデザインという範疇を軽く飛び越えていました。多忙の中でも何を聞いてもわかりやすく、気さくに答えてくださる金谷さんは、これからも京都でどんどん新しい風を起こしていく予感がしました。

取材・文=ヘメンディンガー綾(Vacances

■企業情報

有限会社セメントプロデュースデザイン
〒604-8081 京都市中京区天性寺前町541-4
TEL|06-6459-0368(大阪本社)
URL|http://www.cementdesign.com


    photo:金谷 勉(かなやつとむ)
    金谷 勉(かなやつとむ)
    代表取締役京都精華大学人文学部卒業後、企画制作会社に入社その後広告制作会社を経て、1999年「CEMENT PRODUCE DESIGN」設立。商業施設の広告デザイン、Francfranc(フランフラン)との商品企画開発など幅広くデザインをプロデュース。また、起業時より自社商品の流通を始め、現在では流通も見据えた形での地場産業との協業事業も進めており、「ガイアの夜明け」や「NHK WORLD」でその活動が取り上げられた。2014年、東京・表参道に産地応援するギフトサロン「コトモノミチ at TOKYO」をオープン。現在は京都をはじめとした各地の製造事業者のモノづくり支援のアドバイス、講義も受け持っている。

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