INTERVIEW
October 10.2016

努力がきちんと報われる社会を目指して。途上国の内側から生み出すビジネスで世界を変えていく「Dari K 株式会社」【これからの1000年を紡ぐ企業】

努力がきちんと報われる社会を目指して。途上国の内側から生み出すビジネスで世界を変えていく「Dari K 株式会社」【これからの1000年を紡ぐ企業】

突然ですが、あなたはカカオを見たことがありますか?

カカオといえば、チョコレートの原料として私たちの暮らしにも馴染み深いものですが、実物を見たことがある人、誰がどこでどのようにつくっているかなど、詳しく知っているという人は、実は少ないのではないでしょうか。

カカオは、学名を「テオブロマ・カカオ」と言い、“神様の食べ物”という意味を持っています。今回ご紹介するのは、その“神様の食べ物”であるカカオを通じて世界を変えようと、東南アジア諸国を舞台にビジネスを展開している「Dari K株式会社」(以下、Dari K)です。

代表取締役の吉野慶一さんは、オックスフォード大学大学院を卒業後、モルガンスタンレー証券株式会社(現モルガン・スタンレーMUFG証券)などでのアナリストを経て、奇しくも2011年3月11日、東日本大震災の日に「Dari K」を創業しました。

世界の経済を動かす金融業界から一転、途上国における農家の人々を、ビジネスの手法で支援する社会起業家へ。そのきっかけや、これからのことなどを伺っていくと、なんとも型破りなエピソードも飛び出す、濃密なインタビューとなりました。

こちらがインタビューに応じてくれた、「Dari K」代表取締役の吉野慶一さん

こちらがインタビューに応じてくれた、「Dari K」代表取締役の吉野慶一さん

 

「Dari K」のチョコレートができるまで

「Dari K」は主に、カカオ豆・カカオマス(カカオ豆の胚乳を発酵、乾燥、焙煎、磨砕したもの)の輸入・ 卸、チョコレートおよび菓子の製造・販売、これらに付随する食品・健康食品などの企画・製造・販売という事業を展開。京都市北区の本店(現在移転準備中で10月2日に開店予定)と、祇園に店舗を構えるほか、全国の主要百貨店の催事に出店するなどしています。

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京都市北区の本店

ここだけ切り取ると、海外からカカオを輸入してチョコレートなどに加工して販売している会社に見えますが、もちろんそれだけの会社ではありません。

「Dari K」は、インドネシアにあるスラウェシ島で暮らすカカオ農家の人々に、カカオの品質を高める技術指導を行い、できあがったカカオを品質に合わせて適正な値段で買い取ることで、がんばる農家の所得向上に貢献。それと同時に手に入れた高品質のカカオを自社で加工して、消費者に対して、カカオ・砂糖・生クリームのみの、本当においしいチョコレートを届けるという「トリプルウィン(三方よし)」のビジネスを行っているのです。

 

人気商品の、カカオが香るチョコレート・トリュフ

人気商品の、カカオが香るチョコレート・トリュフ

日本ではあまり知られていませんが、実は、インドネシアはカカオ豆の生産量が世界第2位の一大産地。にも関わらず、日本に輸入されているカカオの80%以上が、生産量世界第3位のガーナから持ち込まれています。

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証券会社を退職後、「なぜインドネシアのカカオは日本に輸入されないのか?」疑問に思った吉野さんは、スラウェシ島を訪ねて現地リサーチを重ね、その理由にたどり着いたといいます。

吉野:インドネシアのカカオが日本に輸入されない理由の一つは、単純においしくなかったから。インドネシアの生産者は、おいしいチョコレートをつくるために欠かせない“豆を発酵させる”という工程を知らずに、そのままのカカオ豆を出荷していたのです。

この状況をもったいないと感じた吉野さんは驚きの行動に出ます。なんと自ら、カカオを発酵させる方法をインターネットで検索して知識を蓄積し、スラウェシ島の村に戻って、カカオ農家の眼の前で豆の発酵に挑戦したのです。

吉野さん:現地の農家の人たちは当然僕のことなんて知らないので、僕のことを発酵のエキスパートだと思っていて。僕もエキスパートきどりで、「こうやってやるんだぞ」とか言いながら、発酵できるか分からないけれど、とにかくやってみたんです。論文持ちながら。

工程を終えたカカオ豆は実際ちょっと香りが違っていたんで、「ほらみろ!」って。彼らもびっくりしていましたが、実は僕の方がびっくりしていたんですけどね(笑)。

発酵すると味も香りも良くなることを知った農家の人々に「これをすれば高く買ってもらえるよ」と吉野さんは声をかけました。しかし、彼らからは「いや、買ってもらえないんだ。だから俺たちはやらないよ」という返事が返ってきたといいます。

というのも、カカオの価格は、スラウェシ島から遠く離れたニューヨークやロンドンの市場で決められ、仮に発酵させたとしても、発酵していない豆と同程度の金額でしか買い取ってもらえない仕組みになっていたのです。それが地元農家のモチベーションを削いでいました。

吉野さん:それでも「いいカカオができたんだからもったいないよ」って言ったら、「じゃあお前が買え」って言われたので、「わかった、俺が買うよ。買って日本で売ってきてやる」って言っちゃったんです(笑)。

日本に帰って一ヶ月くらい経ったときに、大阪港から「吉野さん、カカオが届いていますよ、取りに来てください」って連絡が来て、港に行ったらちゃんと麻袋で600kgのカカオが届いていました。家の2/3がカカオで埋まったときは唖然としましたね。

「もう売るしかない」と決心した吉野さんは、大手チョコレートメーカーへの営業を始めます。しかし、当時どこにも属さない個人からの電話ということで、まったく相手にされませんでした。そこで、吉野さんはチョコレートを自分でつくることにします。

本屋に行ってチョコレートづくりの本を見て回るも、書籍には市販のチョコレートを溶かすところからしか載っていません。それもそのはず、当時カカオ豆を焙煎してチョコレートをつくれる人は、世界でも数えるほどしかいなかったのです。

でも、カカオ豆を焙煎しないことにはチョコレートはつくれません。そこで、吉野さんは、ハローワークで「豆から一緒にチョコレートをつくってくれる人」を募集することにしました。

吉野さん:豆からつくるのなんて珍しいので、製菓学校に通う学生やケーキ屋で働いているパティシエの数人が応募してきてくれたんですが、彼らはショコラティエに憧れていて、僕がシェフでもなんでもないことを知ると、ほとんどが辞退していってしまいました。

でも、その中に一人、コーヒー屋さんでバイトしていた子がいて、その子と一緒にコーヒーの要領で焙煎してやってみたら、とんでもなくおいしいチョコができたんです。

こうして「Dari K」のチョコレートは誕生し、今では、日本全国からこの味を求めてお客さんがやってくるようになりました。2015年には、洋菓子の本場パリで毎年開催される世界最大のチョコレート見本市「サロン・デュ・ショコラ」に出展。見事、ブロンズアワードを受賞するに至ったのです。

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「サロン・デュ・ショコラ」に出店したときの様子

その土地の内側にある本質へアプローチ

創業から5年。数々のメディアにも取り上げられ、途上国の農家の人々と伴走するチョコレート屋として、どんどんと知名度を高めている「Dari K」ですが、他社との明確な違い、その真髄は途上国へのアプローチの仕方にあります。

例えば、一般的な途上国支援は、途上国の職がない人たちのために、国外から仕事を持ち込むという構図になります。しかし、「Dari K」は、外から持ち込むのではなく、徹底的に現地の人たちにヒアリングをして、彼らの困りごとや天候など、あらゆる状況を把握した上で、何ができるのかを考え、実行しています。立ち位置が途上国の内側なのです。

そして昨年、内側にいる「Dari K」だからこそ見えてきた、現地の大きな課題がありました。それは近年目覚ましい、世界の気候変動にどう対応していくかということです。

吉野さん:昨年、「エルニーニョ現象」によって7ヶ月連続で雨が降らず、深刻な水不足が起きて、カカオはほぼ全滅してしまいました。運が悪いといえばそれまですが、次の年も、次の次の年も、この状況が続かないとも限りませんし、運が悪いでは片付けられないんです。カカオが採れなくなるのは、彼らにとっても、チョコレートメーカーである僕たちにとっても死活問題ですから。

そこで吉野さんは、カカオとは別の作物を植えることで、彼らの収益を平準化させようという試みを始めました。

作物同士が土の中の栄養を取り合わないような混植の組み合わせを調査したり、カカオの非収穫期に収穫できるに作物を植えたり、市況に影響される換金作物ではなく自家消費用のトウモロコシや、タピオカの原料であるキャッサバを植えるなど、いわゆるアグロフォレストリー(森林農法)の方法を教えているそうです。

アグレフォレストリーについて現地の人たちに教えているところ

アグレフォレストリーについて現地の人たちに教えているところ

吉野さん:一口に農家と言ってもいろんな人がいて、おじいちゃんとおばあちゃんの農家もあれば、若いアグレッシブな農家もあります。

例えば、おじいちゃん・おばあちゃんで、収入はほどほどでよく、むしろ農園のメンテナンスに手がかからないことを好む場合は、背の低いトウモロコシや唐辛子など、はしごを使わなくていい作物が合っていますよね。たくさん収入を得たい若者だったら、カカオの割合を低くして、収穫は重くて大変だけど高く売れるドリアンにしようとか、その人にあった組み合わせがあるわけです。

この時、金融業界出身である吉野さんの強みが発揮されます。一つずつの作物に対する予想収益率を算出。「利益を最大化する」「負荷がかからない」「雨が降らなくても大丈夫」といった組み合わせを設計し、『アグロフォレストリ・ポートフォリオ』を組成できるようにしたのです。

これは経済産業省から受託した事業で行った取り組みで、経産省からも「画期的である」として、高い評価を受けました。しかし、この取り組みをしたからこそ、さらなる課題が見えてきたのだとか。

吉野さん:地球温暖化などの、世界規模での問題に対して、一農家で対処しきるのは、不可能だということです。でも、どうにかしていかなければなりません。僕は今、コミュニティで取り組むということで、対処していけるのではないかと思っています。

スラウェシ島には海藻農家がたくさんいます。ポイントは、海藻農家は大雨が降ると漁に出られないということ。

逆にカカオは、雨が多いほどよくできます。このカカオと海藻の逆の性質をうまく利用して、コミュニティとして補完し合える関係がつくれれば、どちらかが全くとれないという状況が生まれても、破綻を免れることができるのではないかと、吉野さんは考えているのです。

吉野さん:このように、そこに住む人たちの困りごとに対して、マーケットの出口戦略も含めて解決策として提案したいんです。レポートを提出しておしまい、というのは一番したくない。彼らと運命を共にし、最後まで保証するのが「Dari K」なんです。そのために必要な事業なら、どんな事業でもします。

現地ツアーが生んだものと、これからのこと

チョコレートの製造・販売や、大手メーカーへのカカオ豆販売、製菓メーカーと連携した新作チョコレートの共同開発、廃棄されているカカオの殻の収益化など、なおもさまざまな展開を見せている「Dari K」ですが、3年ほど前から、チョコレートの閑散期である夏の期間に、社員と一般のお客さまをスラウェシ島へ連れていく現地ツアーも実施しています。

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閑散期の社員教育と、「Dari K」のファンづくりが目的でしたが、これが思わぬ副産物を生んだのだとか。

吉野さん:スラウェシ島にはいわゆる観光資源はありません。あるのは畑と海だけ。そこに日本から、何十人もの人が飛行機を乗り継いで、カカオをつくっている様子を見にわざわざやってくる。

しかも、そのカカオでつくられたチョコレートが「おいしい」という、これまで聞くことのなかったエンドユーザーの声を耳にする。これが現地の人たちにはとても嬉しかったのです。

「このことが現地農家との関係性を大きく変えました」と吉野さんは言葉を続けます。

吉野さん:それまで僕たちと現地の農家の人たちは、よく言えば共同体、冷静に言えばビジネスパートナーでした。そこには、僕らがカカオを高い値段で買い取ってくれるから、という前提があってこそ成り立つ関係でした。

その証拠に、カカオは残留農薬のチェックが厳しく、日本の検査でアウトになると廃棄しなければならなくなってしまうので、カカオ農家には「農薬は使わないでくれ」と頼んでいたのですが、ずっと断られていました。

ただ、このツアーを始めた途端、「日本から来たツアー参加者は家族だ。家族に危ないものを食べさせるわけにはいかない、オーガニックでつくるやり方を教えてくれ」と自ら言い出したんです。

人の意識を変えるのはとても難しいことです。でも、お金ではなくリアルなつながりが彼らの意識を変えました。お金だけではない精神的な「やりがい」を農家に感じてもらうために、このツアーはとても重要だと思いました。これからもいろんな方法で、生産者と消費者をつないでいきたいと考えています。

そしてもうひとつ、これから「Dari K」が取り組んでいきたいことがあると吉野さんは話します。それは、「Dari K」の活動に、大企業を巻き込むこと。

例えば、世界有数の原料チョコレートメーカーであるスイスの「バレー・カレボー」は、多くのコストをかけてカカオ農家の現地調査を開始し、彼らにいくら支払えば彼らの生活が安定し、カカオの生産も安定するのか現地で本格的な調査を始めているのだとか。同じような状況を、日本でもつくっていきたいと吉野さんは話します。

吉野さん:大企業が僕たちと同じようなやり方をとってくれたら、社会にもたらすインパクトは絶大です。一方で、そうなると自分たちの役割がなくなってしまう。葛藤がないと言えば嘘になります(笑)

でも、やはり大きな社会という枠組みで見れば、その方がいいに決まっています。5~10年経ったときに、「Dari K」は、全く違う事業を行っているかもしれませんね。

ここ1~2年、日本政府からの案件を多数受託し、相手国政府や現地住民を相手にプロジェクトの説明から実行までこなしている「Dari K」。創業5年の小さな企業が、大手企業などが受託するような案件を委託される理由について、吉野さんは自身のブログで次のように綴っています。

吉野さん:「Dari K」はもはや単なるチョコレート屋ではなく、世界の様々な課題に対し、その本質を見極め解決策を提示できるレベルになっているからだと胸を張って言いたい。

これは決してビッグマウスではなく、これまで一切の妥協せずに現地に寄り添い続け、現地の農家と運命を共にする覚悟で実践してきた経験が裏付けとなって、こう宣言させているのだと感じました。

創業6年目に入り、これから一段と成長する「Dari K」がどんな未来を見せてくれるのか。一層注目していきたいと思います。

 

インタビュアー:赤司 研介(京都市ソーシャルイノベーション研究所 エディター/ライター)

 

◼︎企業情報

Dari K 株式会社

〒604-8801 京都府京都市北区紫竹西高縄町72-2(新大宮商店街内)

TEL|075-803-6456

URL|http://www.dari-k.com/

 


    photo:吉野 慶一(よしのけいいち)
    吉野 慶一(よしのけいいち)
    慶応義塾大学経済学部、京都大学大学院、オックスフォード大学大学院卒業。モルガン・スタンレー証券株式会社(現モルガン・スタンレーMUFI証券)投資銀行アナリスト、スピードウェル株式会社(投資顧問・ヘッジファンド)アナリスト、(財)統計情報研究開発センター研究員を経て、2011年Dari K株式会社を設立。

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