INTERVIEW
Jul 3.2020

京都情報大学院大学 教授 今井正治さんーイノベーション・キュレーター塾生インタビュー

7月から、6期生の募集を開始したイノベーション・キュレーター塾。

昨年卒塾された4期生にお話を伺い、塾の魅力と塾生の方々に起こった変化をご紹介します。

今回は、ベンチャー企業のCTOとして事業を推進されていた今井 正治さん。入塾されてからの変化、そして今井さんの創りたい未来について語っていただきました。

京都情報大学院大学 教授 今井正治さんーイノベーション・キュレーター塾生インタビュー

Q: なぜ、イノベーション・キュレーター塾に参加しようと思われたのですか?

今井: 2016年に大学を定年退職し、かつての教え子と一緒にIT系のベンチャーを起業しました。この会社では、 IoT(モノのインターネット)と無線通信システムを扱っていました。これらの製品を使うことで様々な社会的課題が解決できると考え、実際の現場にアプローチを始めていました。その中で、取引先の金融機関で地域創生を担当しておられた方から、イノベーション・キュレーター塾への参加を薦められました。それまでは理系の分野で研究や教育を行ってきたのですが、ソーシャルイノベーションという文系の分野に関しては全くの素人だったので、一から勉強をさせていただこうと思いました。

Q: 塾の受講中に取り組まれたマイプロジェクトの内容と、そこに込められた思いは?

今井: 塾でのマイプロジェクトは「里山の活性化」です。里山は日本にとって、農産物の供給源であるというだけでなく、文化や心情の面でも重要な意味を持っていると思っています。里山の主要産業である農業にとって深刻な問題の一つが、シカやイノシシによる獣害です。獣害の発生を減らすために、ワナを使って害獣を捕獲し、ジビエとして販売できれば、一石二鳥のビジネスになると考えました。実現すれば、農業従事者が増え、ジビエの販売や観光などの産業が生まれて里山が活性化し、一般消費者にも喜んでもらえると思ったのです。このビジネスをサポートするIoT応用システムを販売すれば、会社も収益を上げることができ、「三方良し」のビジネスモデルができるという構想でした。

Q: イノベーション・キュレーター塾を受講する中で、どんな気づきがありましたか。また、その気づきにより、当初想定していたマイプロジェクトは現在どのように変化しましたか?

今井: 里山活性化プロジェクトでは、京都郊外の里山で実際に農業をやっておられる方にシステムの提案をしたのですが、見事に失敗しました。失敗の原因はいくつかあります。まず、問題が思っていたほど単純では無かったことです。里山の農業問題は、ステークホルダーが多く、他の複数の問題(少子高齢化、過疎、自然災害の発生など)とも複雑にからみあっています。また、農家には害獣駆除のためだけに多額の設備投資をする余裕がないという経済面の問題もあります。最大の気付きは、私のアプローチはフォアキャスティング思考に基づいており、農家の方の考えを十分に理解できていなかったということでした。

※フォアキャスティング思考とは…過去〜現在を起点に考える思考アプローチのこと。反対にバックキャスティング思考は、あるべき姿から今を考える思考法。

Q: 現在の取組についてご紹介してください。また、創りたい未来や生き方について語ってください。

今井: 塾で河口 真理子さんのご講演をお聞きして、SDGsに興味を持ちました。里山問題を解決するためには、関連する諸問題を含めてより高い抽象度で問題を俯瞰して、あるべき未来を思い描き、そこに至る道をバックキャスティング思考によって見つけ出すという作業が必要だと気付かされました。

その後、2019年3月に会社役員を退任し、京都情報大学院大学に移りました。大学からは、産官学の連携を促進するセンターを作って欲しいと言われたので、SDGsへの貢献を理念として掲げた「サステイナブル・オープンイノベーション・センター(SOIC)」という組織を作っていただきました。SDGsを達成するためには、一見遠回りのようであっても、実は人材の育成が早道だと思い、2020年3月に「2030 SDGsカードゲーム」公認ファシリテーターの資格を取得しました。カードゲームを入り口にして多くの人にSDGsを理解してもらい、ゴールの達成に貢献できる人材を育成したいと思っています。これからの理系教育の中でも、SDGsはエンジニアの倫理教育に重要な意味を持つと考えています。

Q: どんな未来を実現したいと思っていますか。また、そのためにどんな生き方がしたいですか。

今井: 一言で言えば、多様な人々が安心して住める、持続可能でレジリエントな社会を作れたら良いと思っています。そのための条件がいくつかあります。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、世界中に大きな被害をもたらしました。医療崩壊寸前の国も現れ、感染の流行を防ぐために都市のロックダウンや移動規制を行わざるを得ないほど、私たちの社会が脆弱であったことに気付かされました。

まだこれからも感染症の第二波、第三波の襲来に備える必要があります。また、流行が終息したとしても、将来的に別種の病原体によるパンデミックが発生する可能性が高いと言われています。したがって、人類にとっていま最も重要な課題は、持続可能でレジリエントな社会をどのようにして構築するかということだと思います。

データ解析の手法を使って調べたところ、47都道府県の人口密度と新型コロナウィルス感染者数の間には、非常に高い相関があることが分かりました。この点を考えると、東京エリアへの人口集中を緩和し、人を地方都市に分散する必要があります。大都市への一極集中は短期的には経済面のメリットがあったのですが、大局的・長期的に考えると経済面だけを見ても最適とは言えません。

また、同時に里山の活性化を図る必要があると思います。現在の日本の食料自給率のままでは、海外からの輸入が途絶えると、たちまち食料が不足してしまいます。食料自給率を改善するためには、地方都市や里山の農業生産を活性化する必要があります。里山は、大規模な自然災害が発生した場合の避難場所にもなりうるので、レジリエントな社会の構築にも役立ちますし、山が保全されることによって里海の豊かさも回復します。

新型コロナウイルス感染症の流行は、我々の生き方にも大きな影響を与えています。この間に、大学などの教育も、対面教育からオンライン授業とオンデマンド型のeラーニングにシフトしました。また、消費者の購買スタイルもBtoBとBtoCの組合せから、DtoC(Direct to Consumer)にシフトしつつあります。これらの傾向は、新型コロナウィルスの流行が終息したとしても、そのまま継続すると思います。もともと起きていた変化が、新型コロナウィルスの流行によって加速されました。

これらの状況を考慮すると、大都市での必ずしも快適とは言えない住宅環境と長い時間を費やしての通勤という仕事のスタイルから、地方都市や里山のような自然の中に住んで、テレワークを中心にした仕事のスタイルに切り替えるための前提条件が整いつつあると思います。これによって、ストレスの少ない人間的な生活が可能になると思います。さらに、精神的なゆとりが生まれることにより、人間関係にまつわる様々な社会的課題も解決できる可能性が高まると思います。

今井さんの活動紹介はこちら(pdfが開きます)

高精度衛星測位システム(RTK-GSNN)基準局の受信アンテナ

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RTK-GNSS基準局のサービス範囲

RTK-GNSS基準局のサービス範囲

Q: どんな人にイノベーション・キュレーター塾の受講を勧めたいですか。

今井: 不確実な時代の中で、持続可能でレジリエントな社会を構築したいと考えておられる方、ソーシャルイノベーションの先頭に立てなくてもイノベーターに伴走したいと考えておられる方、そして自分と向き合い、自分の生き方について考えたいという方にお薦めしたいと思います。


photo:お話を伺った方:今井 正治 さん
お話を伺った方:今井 正治 さん
京都情報大学院大学 教授 / イノベーション・キュレーター塾 第四期生

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