働き方改革
Nov 7.2018

イノベーションを生み出すチーム作りとは│京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」実践セミナーレポート[前編]

「イノベーションを生み出すチーム作りとは」と題した、京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」実践セミナー。プロノイアグループより代表取締役ピョートル・グジバチさん(元Google人材開発担当)、コンサルタントの世羅侑未さんにお越しいただき、SILKの大室所長、田中コーディネーターとトークセッションを行いました。

[テーマ]
○イノベーションを生み出すチーム/組織をつくるには
○これからの時代に求められるリーダーシップとは
○これからの1000年を紡ぐ京都の生き方・働き方とは

(以下、敬称略)

イノベーションを生み出すチーム作りとは│京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」実践セミナーレポート[前編]

クローズドからオープンへ、鵜飼いのマネジメントから、羊飼いのマネジメントへ。

田中: ピョートルさん、世羅さん、大室さん、今日はよろしくお願いします。では早速ですが、どんなチームにすればイノベーションを起こせるのか、ピョートルさんにお話しいただければと思います。

ピョートル: まず皆さんにマクロレベルで今の産業の変化をご紹介したいと思います。これまでのビジネスはモノづくりが中心でしたが、今のビジネスはほとんどが仕組み作りです。また、これまでほとんどの企業は自社の利益を重視していましたが、今後は社会のためにいかに貢献するかという視点が求められていきます。

組織のあり方としては、クローズドからオープンへとどんどん変化しています。新卒で入って勤め上げるあり方はもう古くなっていますよね。弊社にも複業の方がたくさんいます。今いるメンバーはリクルート、Yahoo!、電通の方ですね、後はなんと経産省の方が入っています。彼女は今モザンビーク在住で、リモートワークをしています。モザンビークは東アフリカの国ですね。こうした働き方をしてもらうには、私たちがなんらかの価値を社会に提供して、皆さんがそこに共感してくれないと成り立ちません。京都でのリモートワークも全然大丈夫なので、今日は実は弊社の採用イベントでもあると思っています。

次に、従来のトップダウンももう古い組織ですね。社長や部長が決めたことを現場が頑張らないといけないというやり方ではなくて、ボトムアップ型の組織で個人の仕事のモチベーションを高めることが大事になってきています。これまではピラミッド型組織が一般的でしたけど、ピラミッドというのはお墓ですよね。あ、京都の皆さんはここで笑ってくれるんですね、先週から青森と名古屋に行って誰も笑ってくれなかったんです(笑)。

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マネジメントの仕方では、計画主義というのはもう終わりです。Googleには3年計画なんてありません。走りながら学習しながら、実践していくしかないんです。それからプレイングマネージャーでいらっしゃる方は、ぜひ今の仕事の仕方をやめてください。隣にいる人と同じ仕事をしながらマネージャーをするというのは残念ながら時代遅れです。

そして、部下を鵜飼のようにマネジメントするのはやめて、羊飼いのようなマネジメントをしましょう。どういうことかと言うと、それぞれのメンバーのポテンシャルを最大限に活かすことをマネージャーの仕事にしていただきたいです。そうしたら掛合せですごい結果を出せるんです。鵜飼のようなマネジメントでは、力を発揮できるわけがないのです。弊社はすごく小さな組織ですが、率直に言うと、出しているアウトプットはおそろしく大きいです。最近はこけることが多すぎてキャーキャー言ってるんですけど(笑)。多分「心理的安全性」という言葉を日本に広めたのは私たちだと思います。

イノベーションは競争からは生まれない。自分のやりたいことをやりましょう。

田中: SILKもコーディネーターは全員複業でやっていて、今の話を聞いて考え方としては近いところがあるのかなと思いました。大室さん、どうでしょうか。

大室: 僕も固定的な組織は作りたくなかったので、それぞれ皆が好きなことをやって、それが結果として京都のためになるんだったらいいんじゃない、というゆるい形で仕事をしています。今、長野にも同じ仕組みを作っています。今西錦司さんという京大の生物学者がいるんですけど、彼はダーウィンの進化論を否定しているんです。その中で出てくるのが、棲み分け理論という話です。進化の過程では、競争して相手を倒すということが起きているわけじゃなくて、ニッチな領域に棲み分けていっているだけだという考え方です。つまり、一人ひとりが空間を見ていて、何も存在していないところに自分を表現していってるだけなんです。この話が最近僕の中で京都のあり方とつながってきて、京都の企業は自分のやりたいことをやっているだけ、それが結果として棲み分けになっておもしろいビジネスを産んでいるんです。今のお話を聞いていて、まさにそういう話なのかなと思いました。

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競争してイノベーションが生まれているわけじゃなくて、自分がやりたいことをやったらイノベーションになった、っていうようにならないと絶対うまくいかないんです。相手を倒そうとしている時は視野が狭くなっているので、イノベーションは生まれません。それぞれの人が楽しくやりたいことをやってくれたら、勝手にイノベーションにつながっていくんだと思っているので、僕が関わっている組織は全てそういうあり方にしています。棲み分け理論に興味がある人は、今西錦司とハイエクが対談している『自然・人類・文明』という本を読んでみてください。

今日も実は京都の企業と議論してきたんですけど、先ほどオープンとクローズドの話がありましたよね。日本の企業って全然オープンイノベーションができていないんです。オープンにしようと思うと、個が立っていないとできない。競争への不安があるとできないんです。そこが日本企業の最大の問題なのかなと思います。こないだも東京の某有名企業に行ってきたんですけど、すごいセキュリティがあって、会社に入るだけでも大変でした。人に聞いても、部署が違うので分かりませんと言われたり。こんな状態では多様性も担保できないし、どうやってオープンイノベーションが生まれるんだと。同質的な人ばかりで議論してても何もできないのに。それくらい日本の企業は遅れてますよ。このままだと総倒れになるんじゃないかと危機感を持っています。

常識を疑い、変化を起こすための“適度な居心地の悪さ”を意図的に作っています。

田中: 世羅さんは実際にパートナーの企業さんに入って、従来の形から新しい形に変えていくことを実務的にされていますよね。その中で難しいなと感じることとかありますか?

世羅: 今日もある製造業の会社に行ってきたんですけど、エントランスに最先端の製品がたくさん置いてあったんです。それがすごくかっこよくて、私もピョートルも興奮してお互い写真を撮っていたら、怒られちゃったんです!「撮影禁止です」って。せっかく素敵な製品があって、私たちはそれをfacebookにあげようと思っていたのに、すごくもったいないなと思って。でも、そういう会社って多いんですよね。どうして隠さなければいけないんだろうと思います。

大室: それは競争しているからですよね。心理的に、競争という言葉が埋め込まれているんです。オープンにして真似されるような技術だったら作らなくていいじゃんと思いますけどね。

世羅: ちょっと違う視点から話をすると、私たちがパートナー企業に行く時に、ピョートルは意地悪なので、意図的に適度な居心地の悪さを作っていくんです。色んなバリエーションがあるんですけど、例えばすごくかたい、全員がネクタイをしっかり締めているような会社に行くと、向こうはいきなり本題から入ろうとするんですけど「このコップおもしろいですねぇ」とか、話をあえてずらしまくるとか。それで「この人たちとは二度と会わない」と思われちゃうと困るんですけど、適度に「ちょっと調子狂うんだけど、なんかおもしろいしいいか」と思ってもらえるようないたずらを仕掛けていきます。

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ピョートル: いたずらも大好き、挑発も大好き。今日も色々しました(笑)。結局、変化を起こすっていうのは、全く違うパラダイムで考える必要があるので、皆さんに少し自分のパラダイムを疑っていただきたいんですよね。このあとのワークショップでその体験をしていただきます。常識を破ることは、日本人が昔すごく得意だったんです。でも残念ながら、今はあまり得意じゃないですね。その中でも、関西人は結構とんがったことをやっていますね。東京は、スタートアップ以外のところでは新しいイノベーションが起こりにくくなっている気がします。

京都のおもしろさは、色んなものが混在している多様性から生まれています。

田中: それは大室さんもいつも言ってますね。

大室: こないだスタンフォードの先生と喋っていた時に、シリコンバレーが最近つまんないんだよねと彼が言っていて。東京と同じように、ビジネスが成長すると人が住めない街になっちゃうんです。そうすると多様性がなくなって、おもしろいことが起こりづらくなります。生態系の話なんですよ。今けっこうおもしろい企業が京都に進出してきています。有名なところだとLINEさんとか、Panasonicさんとか。彼らが今京都をおもしろいと感じているのは、色んなものが混在しているからなんですよね。多様性があるからクリエイティブなことが生まれる。でも京都の人はそれに気づいていない。京都のおもしろさを中にいる人は分かっていないと思います。

ピョートル: 京都には昔ながらの伝統や文化があって、同時に伝統をどうやって変えていくか、伝えていくかという新しい動きもありますね。大阪も神戸も近いし、来ると毎回おもしろいエネルギーが感じられるんです。小さなお店でおばあちゃんと話すだけでも、東京では感じられないエネルギーがあります。

東京もおもしろい、いい街なんですけど、東京の人もそれに気づいていないですね。アメリカは、技術の集まるシリコンバレーが西海岸にあって、金融業界のウォール・ストリートが東海岸にある、エンターテイメントならロサンゼルス、というように距離が離れすぎていてすごく非効率です。でも東京は、スタートアップが活躍する渋谷、恵比寿、代官山から、金融の大手町、政治の霞ヶ関、どこも全部電車ですぐ行ける距離にあります。物理的な距離の近さのメリットをもっと活用すればいいのに、と思います。渋谷のスタートアップでお金が欲しい人は大手町に行けばいいし、国を変えたい人は霞ヶ関に行けばいいじゃないですか。この縦割りは何なんですか、と聞きたい。京都も同じですか?

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大室: 僕も実は東京生まれで京都人じゃないんですけど、京都ではあんまり縦割りは感じないですね。そして、京都の人はよそものを使うのがすごく上手です。京都は人口150万人くらいの街ですが、その中に研究者が3万人もいます。彼らを使うのが企業も行政も上手だなぁと思います。外の人を巻き込んでいくことで新しいものが生まれることを、京都の人は昔から知っているんじゃないかなと。だから僕みたいな東京で育った人間にも、SILKを立ち上げから任せて色んなことをやらせてくれています。「一見さんお断り」という言葉があるように京都の人は最初は距離を置く一面もあるけれど、一定の領域を超えていけばめちゃくちゃ仲良くしてくれるので、非常におもしろい。それが1000年もここに都市があった理由なんじゃないかな。懐が深いですよね。

田中: 京都の可能性は僕も感じているので、プロノイアさんにもぜひ関西に来る機会をたくさん作ってほしいなと思います。一方で、京都の老舗企業や中小企業では、現場でなかなか変化を起こせないと感じられている方も多いなと、京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」の中でも感じています。組織を中から変えるにはどうしていけばいいのか、ヒントをいただけると嬉しいです。

[後編]へつづく

会場 : GROVING BASE
写真・文 : 柴田 明 (SILK)


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