働き方改革
Jul 5.2018

採用活動の工夫は?定年後の再雇用は?管理職の育休復帰は?│京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」実践セミナーレポート[後編]

採用活動の工夫は?定年後の再雇用は?管理職の育休復帰は?│京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」実践セミナーレポート[後編]

(敬称略)

[前編]はこちら

働き方やスタッフの自己実現を考えないと、採用はどんどん難しくなると思います。

阪本: 光畑さんの会社は子連れの方が多い状況で、雰囲気はどんな感じですか?

光畑: 最初は本人も家族の方も、けっこう心配されます。子育てだけでも大変だって言われているのに、更に子供を連れて仕事をするなんて、って思うんですよね。ところが、仕事をし始めると、皆仕事をしている方が楽だって言うんですよ。なんでだろうって考えたんですけど、社会とのつながりが持てる、誰かの役に立てるという実感があるからかなと思います。産後うつを経験したような状況で入ってきて、別人のように元気になった方もいます。

実は、私自身も最初はできないと思っていた部分もあって、青山のお店をオープンする時には単身のスタッフも採用しました。さすがに子連れスタッフだけでお店を回すのは無理だろうと思って。ところが結果として、長く続けてくれたのは子連れのスタッフばかりでした。昔は赤ちゃんをおんぶして農作業したりしてたじゃないですか。古くからある働き方なんですよね。最終的に青山のお店は単身のスタッフはやめてしまって子供のいるスタッフだけで運営しているのですが、皆よく頑張ってくれています。

阪本: 今回「ここで働きたい!!」と思われる組織作りがテーマなのですが、働き方の工夫は採用にもつながっていますか?

光畑: うちで働きたいと言ってくれる人って、保育園に入れなかった人ではないんです。赤ちゃんがまだ生後数ヶ月で、小さい間は一緒にいたいから働けないと思っていた人が、一緒に働くという選択肢があるなら働きたいという意志で応募してくるんです。お母さんが自分たちにできる力があるんだという自信を持つことで、働き方改革の話だけなく、子育て支援にもつながっているように思います。

秋山: 最近入ったスタッフは、僕らが今までやってきたシングルマザー向けシェアハウスなどの子育て関連の取組を見て、来てくれています。この業界を選ぶ人自体も減っていてどこの事務所も人材不足に悩んでいるので、働き方とかスタッフのやりたいことをどうやって実現していくのかを考え続けないと、採用も難しいのではないかと思います。

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居心地がいいのか、誰もやめないんです。

阪本: 二九さんは従業員がどんどん増えていますよね。

二九: 新卒は今年17人、年間を通すと30人くらい入社しています。今200人くらいなんですけど、僕が社長になった頃は80人くらいだったので、この8年くらいで倍以上になりました。やめるやろなと思って採用してるんやけど、誰もやめないんです。この3年間で、新卒の子でやめたのは1人ですね。その子はダンスが好きで、アメリカに留学したいと言っていました。夢があるならチャレンジしたらいい、何かあった時は帰っておいでよと言って送り出しました。

若い女性がけっこういるので、子育て中は時短勤務をするんですけど、それも3歳までとかではなく、小学校卒業まで、役職そのままで時短勤務をOKにしました。誰もそんなことやってへんねやろ、ほなやろうと、無理矢理やったんです。その間会社はもちろん大変です。我慢せなあかんのですけど、その分、子供が中学生になってから、頑張って会社に貢献してくれると思います。そこを期待して。慣れた人が時短ができないということでやめてしまうのは非常にもったいないし、今のやり方の方がお互いハッピーやと思うから。

阪本: 実際に一度やめて戻ってこられた方もいますか?

二九: 3人いますね。2回出た人もいます。お兄さんが亡くなってどうしても家業の手伝いを数ヶ月せなあかんということで、それはもうしゃーないですよね。彼は今工場長をしています。

阪本: 人材不足が特に深刻な宿泊業界の中で、人を育てるコツはありますか?

山内: まず、求人票はものすごく模索して、自分で書いています。メディアのライターがヒアリングにきて書いた原稿を見て、私が思っていることと全然違ったという経験があって書き始めたんですけど、求人票はオーナー自らが思いをぶちまけて書くべきやと私はつくづく思うんです。実際にその求人票を見て、こういうことやらせてもらえるなら働きたいとか、キャッチコピーにひかれて来ましたという人が過去に何人もいました。

パートさんが多い業界の中でうちは6割が正社員になってます。ただ、毎年高卒の子に面接とか色々な場面で3年は辞めるなとこんこんと言い聞かせているんですけど、その結果、皆きっちり3年で辞めてしまうんですよ。何か理由があるんだとまた考えて、活躍できるキャリアプランをきっちり明示してあげることが必要かなと思い至りました。研修を増やしたり、若い従業員の意見でも良いと思ったことはすぐに実行に移すようにして、長く働いてもらえる職場にしていきたいと思っています。

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今日帰られたら、1つでも2つでもすぐに実践することが大きな一歩になると思います。

阪本: 最後に皆さんに伝えておきたいことや、自分がこれから取り組みたいことなど教えてください。

二九: 夢はね、僕の部屋を光畑さんのところみたいに子供を連れてこられるような場所にしたいんですよ。僕がそれを言ったら社長室長の大川も同じことを考えていて、これはもうちょっとやらなあかんなと。僕の居場所をまた新しく作らなあかんけど(笑)。本社と各工場があって、本社だけするわけにもいかんし、現実はなかなか難しいのですが、今のところそれが夢ですね。

秋山: うちはスタッフ4名とアルバイト2名の計6名でやっている小さい事務所なのですが、小さかったとしても、スタッフのためにできることはあると思っています。小さいからできません、これだけ仕事を抱えているからできません、と言い訳するんじゃじゃなくて、やると決めてしまうことを心がけています。夢はですね、スタッフが世界一周しながら仕事したいと言っているので、それを実現したいなと思ってます。

光畑: 去年くらいまで「子連れ出勤は真似しなくていいです」って言ってたんです。こんなこともできるという例として常識を壊すためにモーハウスはこの形でやっているので、自分の会社の状況を見て選択肢を作っていってくださいと。ただ少子高齢化がどんどん進んで、働き手が足りなくなっていますよね。実家が倉敷の小さな商店で、親戚やご近所の小さい会社が皆つぶれていってるんです。大きい会社は社内に保育所を作るという解決方法がとれます。でも、小さい会社にはできない。

子連れ出勤は意識改革や工夫は必要だけれどハコものとしての費用はあまりかからないので、小さな会社が生き残っていくための一つの方法として、やってみたらどうですかと思うようになりました。今の社会で求められている働き方だなと。先ほどお話ししたように、やってみたらできるんです。ぜひ「社会のため」だと思って、チャレンジしていただきたいと思います。

山内: 旅館というのはもともと一軒家のオーナーがお客様を迎えるために、布団をしいたりお料理をしたり一連のことを自分でしていたわけです。今私たちが進めているマルチタスク化は、本来の旅館業のあるべき姿に戻っているだけなんです。ある時はフロントでチェックインをし、ある時は布団上げをし、洗い場に入り……それをシフトを組んでやっていくんですけど、一通りの仕事をやったら、次は好きな仕事を増やしてあげたいと思っています。私これが向いてるわ、と思う仕事は人それぞれ違うので。

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経営者として私がずっと心がけているのは、従業員とコミュニケーションをとるということです。今日は珍しく着物を着てますけど、いつもは事務所にこもって、だらしない格好でコーヒーを何杯も飲みながらパソコンの前でカタカタカタカタやってるんです。それやと従業員がものすごく話しかけづらいことに最近気付きました。いつも「お忙しい時にすみません」と申し訳なさそうに来てくれるので、これではあかんな、もっと喋りやすい環境にせな、と思いまして。従業員同士の会話にちょっと便乗してみたり、愚痴が聞こえてきたらスルーせずに拾い上げて聞いたり、とにかく会話を増やすことを心がけています。

最後に、京都にはすばらしい経営者がたくさんおられて、その方々の素敵な言葉に出会うことが人生を豊富にすると思っています。私はその中で、日本電産の永守会長の「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」という言葉を手帳や色んなところにいっぱい書いて、何かあるたびに振り返るようにしています。今日みたいな勉強会やセミナーに参加する中で、いろいろな話を聞いても何も行動しない人が8割、9割やって聞くんです。だから今日聞かれたら、ぜひ1つでも2つでもすぐに実践するということが大きな第一歩につながるのではないのかなと、僭越ながら思っております。


 

この後、駆けつけてくださった門川市長から京都市の保育施策や少子化対策についてもお話しいただき、後半は参加者と登壇者を交えて、少人数のグループで感想や自社の取組状況について意見交換を行いました。最後に、登壇企業のスタッフの方にも前に出ていただき、参加者の皆さんからの質問にお答えいただきました。

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Q: うちの会社も定年後の再雇用をしているのですが、仕事量がそのままなのに給与が下がったと不満が出ています。二九さんはどうしておられますか?

大川(二九精密機械工業 社長室 室長): 社長の考えははっきりしていまして、給与はほとんど減らしていません。60歳を超えてから採用する人もいますが、そういう方もそれなりの金額をお出ししているので、年金はもらわず給料で生活しています。

二九: よくお客さんから二九の製品は高いと言われるんです(笑)。再雇用の場合も、自分で稼げるうちは稼いでくれ、年金は70歳過ぎてからとか、後に置いておけと。会社は働いてくれた分は出しますから、と言うてます。

Q: 弊社も目安箱を設置していて、書いてくれた人には500円のQUOカードを渡すようにしています。ところが記名制だと書きにくいと言う声もあって、匿名性を検討した方がいいのかとも考えています。経営者からは、名前を書かずに言いたいことを言う人間は作りたくないから受け入れられないと言われてているのですが。山内さんは匿名制についてどう思われますか?

山内: 自分の発言に責任を持ってほしいので、匿名には私はしたくないんです。記名で本音を書ける環境を作ることが大事やと思っています。書いてくれた時には、必ずコメントを返してあげることを心がけています。どんな小さなことでも「いい着眼点やね」とか、言ってあげるんです。うちは目安箱に入れる規定用紙を2種類用意していて、具体的な改善策はわからないけれど気になっている、という段階でも意見を書けるようにしています。やる気のある人は既に自分が改善したことを具体的に書いてくれます。

Q: 会社でどこでもオフィススタイルを採用していて私自身が在宅勤務をしているのですが、オフィスを離れたことで雑談から生まれるアイディアを逃しているのではないかとか、何か情報を取りこぼしていないかとか、社内のコミュニケーションが少なくなってしまうことに悩んでいます。秋山さんはそのあたりどのように解消されていますか?

秋山: 実際に在宅勤務をしているスタッフがいるので答えてもらいますね。

池中(秋山立花スタッフ): すごくわかります。私は週に1、2回事務所に行ってるのですが、家で一人で作業をしているともんもんとしますよね。先ほど秋山がオンラインお茶会は失敗だと言っていましたが、あれをきっかけにオンラインで雑談やちょっとした質問が増えたかなと思います。

秋山: うちとしてもそこは課題の1つです。まだ顔を合わせたことのない人たちもいるので。今度初めて全員集合する機会を作ることができました!

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Q: 育休からの復帰について質問です。周りの人の負担や不満の解消をどうしているのか、また、マネジメント職の復帰の仕方や、育休期間中代わりにその仕事をしていた人の処遇はどうしているのでしょうか?

秋山: 今鳥取にいるスタッフが2回出産を経験しているんですけど、ある程度時期が明確に見えるので、それに合わせて社内の体制を準備しておくというだけでなんとか乗り切ることができました。なので、復帰の時は特に何かを変えることもなく、普通に復帰していた、という感じです。

山内: うちは育休を取ったのは私だけなのですが、休みに入る時は半年前から準備を進めて、自分が持っている全ての業務をそれぞれ適任だと思う人に振り分けました。産んだ後は、1ヶ月くらいで顔は出していましたね。今後も出産するスタッフがいたら、同じように全ての業務を他の人にふれと指示すると思いますね。復帰は焦らず、助走期間を設けてあげて、ゆっくりできることから始めるのがいいと思います。戻って来た人にも、その人を周りでサポートする人にも、小まめにコミュニケーションを取ってあげるといいと思います。

光畑: 私たちのところはもともと1人分の仕事を数人で分けている形なのでそれほど問題になることはないのですが、休み方や復帰の仕方にも選択肢を設けています。週に数時間の勤務から始めた人もいますし、早い人は産後2ヶ月くらいから来てくれました。以前の制度では育休中は全く働けなかったのですが、制度が変わって、育休期間も少しなら仕事ができるようになっています。いきなり0から100にするのはしんどいので、週に何時間だけとか、この日だけという形でお願いするような形もとっています。休みの間に顔を出すだけでも、本人も周りも随分気持ちが違ってくると思います。

大川: うちは小学校卒業まで時短勤務なのでメンバーの半分以上が時短の社員というところもあって、そういう場合や育休期間中は、契約社員や派遣社員の方に入ってもらっています。会社としては忍耐も我慢もいります。でも、だんだんチームワークが芽生えてきますし、子育てや介護は人生の中でほとんどの人が通過することなので、お互い様になってくるんですよね。家庭環境とか子供の様子とか背景をさらけだして、共有できていると良いと思います。

マネジメント職の復帰については、うちは時短勤務で戻って来ても、同じポジションに戻しています。係長が育休をとったら、その間は主任がその代わりを勤めます。係長が戻って来たら主任は元の業務に戻って、前と同じように係長に頼っています。人間関係がややこしくなるようなことは今までありません。それも、休んでいる間も赤ちゃんと一緒に顔を見せに来てくれたり、連絡を取り続けているからこそかなと思います。


 

登壇者の皆さん、参加者の皆さん、ありがとうございました!7月からは、いよいよ京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」が本格始動します。プログラムの様子も随時webサイトでお知らせしますので、応援よろしくお願いいたします。

写真・文 : 柴田 明 (SILK)


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