COLUMN
Apr 4.2017

【レポート】日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016(2016.9.28~29)

【レポート】日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016(2016.9.28~29)

「今,ソーシャルイノベーションはブームですものね。」

2016年9月28日から30日に東京で開催された「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム 2016」に参加した際にふと耳にした言葉です。なるほどたしかに,今回のフォーラムの参加者は3日間で延べ約2,200人。会場は毎日多くの人であふれ,ソーシャルイノベーションに対する関心の高まりは非常に強く感じました。

このフォーラムは,ソーシャルイノベーションのハブの役割を担うとする日本財団が,マルチセクターが一堂に会し「にっぽんの将来」を議論する場として,今回初めて開催したものです。

初日は衆議院議員の小泉進次郎氏による基調講演や,日本財団が選出したソーシャルイノベーターの紹介,2日目は分科会,3日目はパネルディスカッションと盛りだくさんのプログラム。

その2日目,3日目の様子をレポートします。

 

<9月29日>

フォーラム2日目であるこの日は,朝の10時から夜の8時半まで,6つの会場において,教育やまちづくり,NPO等,約30ものテーマで分科会が開催されました。
今回,私が参加した分科会の模様を少しご紹介します。

学生の問題意識に始まる,ソーシャルイノベーションの可能性

②(分科会の様子)

高校生が主体的に進路を選択するきっかけ作りを目的としたサマースクール実施しているHLAB。代表理事の小林亮介さんが大学生のときに「高校時代にこういうものがあったらいいな」と思い,作り始めたというこのプログラムは,現在,高校生,国内外の大学生,行政,企業と様々なセクターが参加しています。HLAB 立ち上げ当初から関わっていたという(一社)東北風土マラソン&フェスティバス代表理事の竹川隆司さんは,当初の事業イメージがあまりにも漠然としていて非常に不安だったと振り返っておられました。

一方で,小林さんが多くの人や機関とのやりとりを経るうちに,事業内容がブラッシュアップされていき,また,同時にこの事業を応援する人たちが増えていくのを目の当たりにしたとのこと。一人の問題意識に留まるのではなく,多様な人々を巻き込んでいくことで,一人では実現しえないレベルでインパクトを出すことができるとディスカッションがなされました。

 

二宮尊徳に学ぶ「まちづくり」

「二宮尊徳の像は本を読んでいるところではなく,薪を背負っている点に注目してほしい。」と本会の口火を切った二宮尊徳七代目子孫の中桐万里子さん。学ぶだけでなく,生産性を保持していることがポイントだと紹介。全国で補助金に依存しない地域再生に取り組む木下斉さんも,他の成功事例を学べば,或いはスーパープレイヤーの真似をしたら,地方創生はうまくいくと思われがちだが,いかに当事者意識をはぐくみ,自らが経済を回していくという意思を持てるかが重要だと語りました。

議論が進む中で,尊徳が生きていた時代も,今の時代も,疲弊している地域に共通しているのは「外からやってきた人がなにかを変えてくれる」と住民が思っている点であることが見いだされました。尊徳の場合は,「あなたはどうしたいか」という問いを与え,民意によるまちづくりをすることで,住民の主体性と尊厳の復興をしていたと紹介した中桐さん。木下さんは,中央から地方へお金を送る現在の構造は依存の悪循環を生むだけであり,地方のプライドは,自立して経済をまわすことにより成り立つ。地域のプライド=尊厳を回復することが本来の地方創生の形であると強調されていました。

 

成長を加速する次世代の資金調達

投資家の目線から,ソーシャルアントレプレナーの事業づくりについて議論されたこの分科会。世界有数のビジネススクールの一つであるIESEビジネススクールのハインリッヒ・リヒテンシュタイン教授は「ソーシャルインパクト投資とは社会を変える可能性を信じる投資。マネジメントとファイナンシャルと社会変化の3つの軸で評価していくことが大切である。ソーシャルアントレプレナーは売れば売るほどインパクトが生まれる仕組みを作る意識をしなければならない。」と述べ,投資期間が長ければ長いほど,投資家にとっても社会にとっても有益となる事業づくりが理想だと解説されました。

また,放課後NPOアフタースクール愛さんさん宅食株式会社(をそれぞれ支援している(一社)ソーシャルインベストメントパートナーズの白石智哉さんや(一社)KIBOWの山中礼二さんは,投資する側のスタンスとして,ソーシャルアントレプレナーには資金提供だけでなく経営の支援をすることが重要であることに触れ,経営者のマネジメントをサポート立場としての投資家の役割を紹介されました。

各会場で分科会が開催されている一方で,ソーシャルイノベーターのブースでは,全国255件の応募の中から選考された10組11人のソーシャルイノベーターが,日本財団から年間上限1億円という大規模な事業資金援助がなされる特別ソーシャルイノベーターに選出されることを目指し,来場者へ自身の取組を熱心に紹介されている姿が見受けられました。

各イノベーターによって,ブースの設えは様々。ゲストを招いてトークセッションを行うブースがあったり,展示をメインとし来場者ひとりひとりと個別に対話を重ねることを主眼に置いたブースがあったりと,限られた空間の中でイノベーターそれぞれの個性がでていました。

⑤(ソーシャルイノベーターブースの様子)

④(ソーシャルイノベーターブースの様子)

③(ソーシャルイノベーターブースの様子)

 

 

<9月30日>

フォーラム最終日であるこの日は,10組11人のソーシャルイノベーターのプレゼンの後,彼らを交えながら,SILKの大室所長やCSRに取り組む企業,若き起業家などによるパネルディスカッションが行われました。

その中で特に私の印象に残った議論が,ソーシャルアントレプレナーと行政との関係性についてです。ジャーナリストの津田大介氏が「これまで社会課題の解決は政治家や行政がやっていた。民間の発想でその動きができるようになったのは意義深い。」と述べると,「一方で,行政任せではいけないが,何かをやろうとすると行政の協力が必要となる」とほかのパネラー陣も議論を展開。大室所長は行政との距離感について,以下のように解説されました。

「行政はあまねく人々にとって最大公約数の策をうつ必要がある。一方で, ビジネスは,そのなかでは拾われない多様化するニーズにこたえていくところにチャンスがある。行政とアントレプレナーが,互いを利用し合うという関係性をつくれるとうまくいきやすい。」

また,元特派員協会会長のジェームズ・シムズ氏は「アメリカは政府を排除していくという思想のもと歴史が重ねられてきた。一方,日本は政府が一つの協力関係者である。」と日米における行政に対する意識の違いを紹介されました。

⑥(パネルディスカッションの様子)3日目

 

パネルディスカッションの後,引き続いて開催された懇親会にも多くの人が参加され,大盛況のなか,本フォーラムは終了しました。

⑦(閉会)3日目

 

「売れる」と「認められる」は同一ではない。
認められるというのは,日常の中に取り入れてもらえるということ。

これは,2年前の5月,京都で300年続くお香の製造・販売をする企業にお邪魔した際に伺ったお話です。
今,ソーシャルイノベーションはまさに「売れる」=「ブーム」の状況にあるのかもしれません。これを,一時的なムーブメントではなく,すでにある企業や人々の「日常の中に取り入れる」=「認められる」チャレンジを,今回のソーシャルイノベーションフォーラムで出会った皆さんはじめ,全国の多くの人と取り組んでいけるとしたら,こんなにも心強いことはありません。


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