COLUMN
Oct 3.2016

【レポート】あらゆる働き方を考える「多様な生き方・働き方」をつくるために

9月13日に行われた「多様な生き方・働き方」をテーマにした「ここからうまれるイノベーション連続セッション」の2回目は、事業者・企業の方々を対象にして、NPO法人FDAの成澤俊輔氏を迎えて、日本政策金融公庫さんに会場を提供頂いて開催されました。後半のトークセッションの相手役は、京都市ソーシャルイノベーション研究所のイノベーション・キュレーターである秋葉芳江さんでした。

成澤氏は自称「世界一明るい視覚障がい者」とご自身を紹介されましたが、第一印象から優しい笑顔が実に素敵な方、そしてお話を通して強い意志と包容力も感じられる方でした。「ライターとストローの共通点は?」で始まったセッションでしたが、障がい者雇用に関してだけでなく、成澤氏ご本人の生き方にも非常に感銘を受け、セッションが終わった後にもこれからの未来、社会の在り方についても考えを巡らせています。内容の一部を感想も交えてレポートします。
(レポート:イノベーション・キュレーター塾一期生阪本純子さん)

成澤さんのセッション第二弾(10月28日開催)の情報はこちらから

【レポート】あらゆる働き方を考える「多様な生き方・働き方」をつくるために

 

01.「目標」「役割分担」「コミュニケーション」そして「褒める」
「紙積み」のグループワークから始まりました。各グループ4名の参加者全員で普通に、紙を高く積むというグループワークの後、グループメンバーのうち1人がアイマスクをし、その状態でのグループワークを進めます。私自身アイマスクをする立場になりました。チームで話し合いしているのに、役に立てていない状況への不安や、役割を与えられた時のモチベーションの高まりを体感し、目標を設定しグループ内で助け合い、コミュニケーション方法に工夫を凝らす中で、チーム内のエネルギーが高まり成果を出すことにつながっていき楽しさも増しました。
このグループワークは、障がい者雇用のイメージを表しているものでした。健常者ばかりの職場に、いきなり障がい者が入ってくる、他のメンバーが意識しないと障がい者は話し合いから取り残される、そこでそれぞれの役割を与えると、チームワークが発揮され成果が上がる、さらに目標を一緒に話し合い、役割が与えられ、その場にあったコミュニケーションの方法をとっていくことで、よりよい結果も出てくるということを体験しました。
このことから、障がい者雇用でのチームワークを高めるためには「目標」「役割分担」「相手に合ったコミュニケーション」の3つが大切であることを学びました。さらに、4つ目として「褒める」ということで安心感が生まれるということでした。「そうそう」「大丈夫!」といわれる言葉がけで安心感が出て、チーム内が盛り上がり楽しくまとまっていく心地いい感覚が出てきます。これらは、障がい者に限ったことでもなく、多様な人で構成される組織におけるチームワークでも大切なことだと思います。

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02.誰かの相手になる仕事を通して自分の存在がある
「僕は経営者の役に立ちたい」「自分の存在は相手がいるから」―成澤氏の思いに感銘を受けました。成澤氏が19歳で経営コンサルタントとしてデビューした時に、初めて自分を必要としてくれる経営者がいたことで、人のために生きたいと思い、その後も経営者の役に立ちたい思いで仕事をされておられます。成澤氏自身、目が見えなくなったとき、一番不安に思ったことは生活や仕事ではなく、「自分の存在が分からなくなった」こと。鏡を見ても見えない、自分がどこにいるのか分からない、でもふと、就労困難者や学生だって社会に出て役に立てるのかどうかが不安で自分の存在を探しているのではないか、経営者もそうなのではないかと考えたということ。成澤氏は「世界一明るい視覚障がい者」というキャッチコピーを持っています。その笑顔の原点は、「僕が笑顔だとあなたが言ってくれたこと」にある、というように、自分の存在は自分で示すものではなく、相手がいるから自分がいることに気づけた瞬間に生き方が大きく変わり、目が見えないことの不安感がなくなったということでした。
就労困難者の雇用創造は、誰かの相手になるという仕事です。「どうせ」「とはいえ」と言っている就労困難者にも、「私がいるから大丈夫」ということを示したい、目が見えないことの不安感を忘れるくらい人とのつながりは魅力あるものということを伝えておられます。相手がいるから自分がいるということを確認するために、そして経営者にも社員やお客さんの存在を示してあげるということが出来ればいいなという思いで仕事をしているということを語っていただきました。

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03.30大雇用とは?人を雇ってから業務をつくる
FDAでは障がい者だけでなく、ニート・フリーター、引きこもり、シニア、LGBT、生活保護受給者、その他、30の様々な働きづらさを抱えた人々を積極的に雇用しており、それを「30大雇用」とよんでいます。それらの方々は国内に3000万人いるといわれているということです。障がい者手帳を持っている人だけでなくグレーゾーンといわれる人も雇用しています。採用難、人材不足、新規事業のための組織などで困っている企業が多くあるといわれる一方、就労困難者3000万の人がいるので、そこに可能性が広がります。
一般的に、多くの仕事はまず業務があり、それに対応できる人を雇っています。ところが、FDAでは先に人を雇って業務をつくっています。業務一覧を見せていただきましたが、データ入力から飲食店支援、値札つけなど、多種多様な業務が示されています。人を雇ったら、その人の強みをまず探して、それを仕事に活かすのが経営者の仕事ということです。
仕事は6種類に分けられて考えています。パソコンの使用の有無、1人でやる仕事かチームでやる仕事か、マニュアルの有無、その掛け合わせの6種類で、それぞれの強みによってできる仕事をつくっていくのが、FDAが行っていることです。
今回の話の中で、「雇う」「雇わない」時代は終わったということも繰り返されていました。FDAのクライアントは大きな規模の会社から小さな個人の会社まで、様々な会社の業務に対応しています。これまでの障がい者雇用はハローワークや人材紹介を使って「雇う」「雇わない」ということが焦点でしたが、それは業務があって、人を当てはめていくやり方です。FDAはそうではなく、それぞれの人の強みを引き出しながら、できることを見出していくという「働き方の概念」を変えたいという思いで実施している事業です。組織で複数の雇用形態を持っているからこそ、就労の形態を各人の状態によって変えられる仕組みを作り上げられており、安心感をもって障がい者の方が仕事に取り組んでいます。

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FDAの30大雇用

04.障がい者雇用に取り組むこと、FDAの業務委託の活用
障がい者雇用に取り組むことは、コンプライアンスのためでなく、経営者にとっては「社員のことを見ている」というメッセージになります。例えばうつ病の人が時短で帰っていたら、若い社員は出産育児でもこの会社であれば受けいれてもらえるなと思える、自分の子供が障がい者であっても働く会社があると思うことができるなど、「あなたに何があっても大丈夫」というメッセージを社員に伝えることになるということです。
社員の仕事をFDAの業務委託に出すことは、多様な働き方を実現する一つの手段であるという話がありました。会社の中で残業、人手不足、病欠…というマイナスの言葉が飛び交っていたり、時間があったらもっとやってみたいと思っている仕事があったら、FDAのような会社に業務委託するという選択肢があり、それがクライアントの経営課題の解決の支援にもなっています。

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05.多様な人が多様な働き方をしているFDA
セッション内では、京都からFDAの川崎事業所をスカイプでつなぎ、スタッフが働く様子を見せていただきました。6名のそれぞれ違う世代、障害や課題を抱えているメンバーが、それぞれ違う分野の仕事をしており、スカイプ越しで、自分の仕事の紹介と障がいの説明、そして今後の目標も含めて自信をもって発表していただきました。それぞれの特性や強み、職業経験を活かして、FDAでできる仕事をつくっていることが伝わってきました。
強みに光を当ててもらえ、仕事を得たことで、これまでの環境では、患者として見られていた障がい者が、初めて社会人としてみられて、大きな自信につながり彼らの中の財産となっていきます。離職率でいうと、普通でも3年で70%、精神障がい者だと3か月で70%の方が離職するといわれていますが、FDAの離職率は0%であり、それは大変大きな成果だといえます。img_9267

06.質疑応答
Q.障がい者の方の強みの見極め方は?
A.一番知っているのは親。強みや良いところを親に100個書いてきてもらっています。

Q.10名以下の会社でも障がい者を受け入れていることが出来ますか?
A. できます。5名以下の会社でも受け入れています。障がいを持つメンバーで資格を持っている人も多く、専門的な業務を担ってもらうことができます。企業規模に関わらず助成金も使えますので、教育コストもペイできます。

Q.トップの考え方がまだ及んでいないが、多様な人材を活用する組織にしていく方法は?
A.外堀から埋めていく方法もあります。同業他社で似たような取組をしている会社を見学に行くことや、社内浸透のための幹部研修を企画するなどといった手段をとるなど。上場会社のデータではありますが、障がい者雇用で業績が下がった企業はありません。数字でせめて行く方法も有効かと思います。

Q.障がい者の親として子供の育て方について、成澤氏自身が感じていることは?
A.親にはいろいろな経験をさせてもらいました。一番大切なのは、親が楽しく働くことです。親がやりがいをもって楽しく働いていたら、社会人になってみようかなと思います。楽しそうに働いていることを見せることが、モチベーティブすることにつながります。

Q.障がい者の方には資格を有する方がいるということですが、設計や建設業などでも雇用できる方はいますか?
A.住宅メーカー出身で、障がいを持ち、1級建築士の資格を持っている方を、CADで図面を引く仕事で雇用しています。不動産業の仕事をしておられる方もいます。

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07.セッションを終えて
今回は、所属する会社の上長である管理部の責任者をお誘いして参加しました。「今すぐは無理だけど・・・」という枕詞つきではありますが、将来ありたい会社の姿、笑顔があふれる幸せな社会の姿について、社内で話題提供ができるきっかけとなりました。私自身の所属する会社では、非常に多くの接客販売員などの派遣を行っています。障がい者雇用については取り組めていませんが、人材不足の課題は常に付きまとっています。18歳から70代後半までの多くの登録スタッフがいますので、その方たちの中には何らかの社会的課題を抱えた方が少なくないはずです。そういった方たちの特性をもっと見てあげて、お仕事をアサインできるようにすることもスタッフの維持にもつながることを感じています。人の強みをみて、そこに光を当ていくこと、活かしていくことということは、障がい者雇用に限らず、多様な人材を活かすこと、働くことが生きがいにつながる共通の考え方だと認識しました。
今回のセッションでの学びは大変深く、お話しの中で出てきたキーワードを見直しつつ自身のことや周囲のことも振り返ってみました。一昔前と比べて、生き方も働き方について、自律性が求められる時代になってきています。そして、組織は、ひとりひとりを受容し活かしていくということが大切になり、そんな組織こそが、成果を出し存在感を高め良い循環を生み出すことになると思います。多様性のある働き方を実現できる社会、働きがいと働きやすさを両立できる社会づくりをしていきたいという思いはありますが、まずは若者や子どもたちに「笑顔で楽しく働く・生きる姿」を見せることが明るい未来につながることを確信しました。私自身も含めた今の現役世代がそんな大人でいること、そしてそうできる社会をつくっていくことが私たちの責任だと認識し、日々の実践を積み重ねていきます。


photo:阪本純子
阪本純子
中小企業診断士 JICA青年海外協力隊OB イノベーションキュレーター塾1期生 アパレルメーカー勤務後、青年海外協力隊としてケニアに赴任、小規模ビジネス支援、特に地域の女性や障がい者などのグループに関わり、さらに帰国後、出産・育児と向き合う中で働き方・生き方について考え直す。その後、イノベーションキュレーター塾で学びを深め、現在は、多様な生き方・働き方を受容する社会に貢献したい、それぞれが持つ能力を活かし成長できる社会にしたい思いで、中小企業の人事担当と経営コンサルタントの複業を実践中。自分事として、自分の関わる身近なところから、組織や人事の課題に取り組んでいます。

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