INTERVIEW
July 07.2016

食を通じて社会を愉快に! 珍魚を通じて漁業の受け皿をつくる 「株式会社 食一」【1000年を紡ぐ企業】

食を通じて社会を愉快に! 珍魚を通じて漁業の受け皿をつくる 「株式会社 食一」【1000年を紡ぐ企業】

突然ですが、質問です。「エチオピア」「ミシマオコゼ」「カマガリ」「ヒゲソリダイ」「オシャレコショウダイ」。これら見慣れない言葉たちは、一体何だと思いますか? 一つでもわかったあなたは、きっと漁業と何らかの関わりがある方ではないでしょうか。

そう、正解は魚。しかも、おいしく食べることのできる魚です。でも、町のスーパーマーケットや魚屋さんでは、こんな名前の魚を目にすることはありません。

その主な理由は二つあります。漁獲量が少ないこと、そしてそもそも市場に存在が知られていないため、ニーズがない、と思われていること。その結果、漁港で働く漁師さんたちにのみ食されたり、処分されたりしてきたのです。

そんな市場に出回っていない“実はうまい珍魚”を流通させる仕組みをつくり、漁港に新たな売上をもたらし、小売店に目玉商品を提供することで消費者に新鮮でおいしい魚を届けているのが、「株式会社 食一」(以下、食一)です。

創業から8年。10種類の珍魚を「海一流」に認定

「食一」は主に、都会に出回らない、漁師だけが知っている珍しくてうまい地魚を「海一流」という名前でブランド認定し、漁港からの産地直送で小売店や飲食店に卸す事業を行っています。


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海一流」の認定基準は次の5つ。

1.信頼できる産地であること。

2.都心部へあまり出荷しない、産地消費されてきた地魚であること。

3.鮮度を重視し、水揚げされたばかりの産地から直送できること。

4.水揚げ日、水揚げ産地、流通経路などのトレーサビリティーが明確であること。

5.生産・流通・小売など、さまざまな有識者による厳正な審査をクリアすること。

現在では10種類の「珍魚」が「海一流」として認定されています。「魚種や漁港の選定には細心の注意を払います」と話すのは、代表取締役の田中淳士さん。自ら産地を訪ね、水揚げの様子を見せてもらって、魚体・味・環境・鮮度などを全てチェックするそうです。

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こちらが代表取締役の田中さん

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産地を訪ね、現場のさまざまな人と言葉を交わします

こちらが「エチオピア」。なぜそんな名前が付けられたのでしょうか。

田中さんはこれまで全国各地300を超える漁港を訪れ、漁港の特徴を把握しながら、信頼できる漁師さんとのネットワークをつくりあげてきました。この“特徴の把握”と“つながり”を生かして、産地と市場ニーズをマッチングできることが、他企業にはない「食一」の最大の強みとなっているのです。

毎朝、漁師さんから獲れた珍魚の情報が入ったら、それを使いたいというニーズがありそうなお店の方たちにLINEなどで情報を流して間をつないでいます。また、逆にお店の方から「こんなメニューを考えているんだけど、いい魚ないかな?」というような問い合わせがくることもあるので、「それなら、この漁港で獲れるこんな魚が相性が良さそうですよ」といった提案をすることもよくあります。

つながりは言い換えれば信頼です。現地を訪れ丁寧な仕事をすることに加え、「食一」が漁師さんから信頼を得ている理由がもう一つあります。それは、田中さんの一番の目的が「珍しい魚を売って儲けること」ではなく、産地での売り上げが上がり、漁師の所得が向上することで新たな雇用が生まれる状況の創発であること。

田中: 卸業者は「できる限り安く仕入れて高く売る」ことで利益の最大化を図るのが通常です。しかし、僕たちは仕入れの値段を上げながら、自分たちも利益を得る方法を選択しています。そうすることで、僕たちも産地も、お店も消費者も、みんなが嬉しい状況を生んでいきたいと考えています。

足を使ったからこそ見えてきた漁港の宝物

そんな田中さんは、実は九州の出身。魚の仲買業を営むご両親の元で、毎日新鮮でおいしい魚を食べて育ったそう。当時から、将来は家業を継ぎたいと考え、その未来になんの疑いも持たなかった田中さんですが、大学在学中に起業を目指し改めて漁業について学んでいくと、業界の現状や課題が見えてきたといいます。

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田中: 後継者が不足し、魚の仕入れ価格は低下、水揚げ量も減少しています。でも、魚に対する市場のニーズは変わっておらず、足りない分を輸入に頼る状況が生まれているのです。そのことを知り、「このままでは日本の食が危ない」という危機感を覚えました。そして、どうせゼロからやるのであれば、そういう業界の課題を、よりよい方向に転じさせる事業ができないかと考えるようになったんです。

そして、田中さんは大学を一年間休学し、2008年に「食一」を創業。「食を通じて社会を愉快に」というミッションを掲げた挑戦が始まりました。しかし、この頃はまだ“珍魚”を流通させるアイデアはなかったといいます。では、どのようにして、このアイデアは生まれたのでしょうか?

田中: 創業当初は“産地直送”と“鮮度”の二つで勝負していました。でも、当然ですが小口での取引なので配送料と手数料の負担も大きく、鮮度がよくても他社と比べて価格で負けてしまう。

早々に行き詰まって、これは何か方法を考えないといけないと思い、尊敬する先輩に相談に行くと「産地を回って来なよ」と助言をいただいたんです。
翌日から包丁とまな板を車に積んで産地回りを始めました。アマダイを食べたり、サバを食べたり、あちこち回っていたある日、見たことがない魚が港に並べてあったんです。名前を聞いても知らない魚で、その場でさばいて食べてみたら、これがめちゃくちゃうまいんです。びっくりしましたね。

さらに、田中さんはこれまでの営業で、なんとかして他店と差別化を図りたいという小売店・飲食店のニーズがあることを知っていました。そこが結びついて、「これはいけるぞ」と直感を得たいいます。こうして、価値がないと思われていた魚に付加価値をつけて流通させるビジネスモデルが生まれたのです。

経済の仕組みの後は、漁業の受け皿をつくる

そうして経済の仕組みを回しながら、次に田中さんが仕掛けたいと考えているのが、漁業の受け皿をつくるということです。というのも、さまざまな分野で担い手不足が叫ばれていますが、漁業も例外ではありません。

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田中: ただ、ある意味で仕方がない部分もあります。これまでは、漁師の仕事は大体が家族経営だったため、漁師の息子が漁師になっていました。でも、息子が街に出て別の仕事をするようになると、父親も息子に漁師の仕事を勧めなくなってしまいました。

理由はもちろん、対価が見合わないからです。漁師の仕事は重労働でかつ、命の危険も伴います。にもかかわらず魚価は下がる一方。これでは継がせたくないですよね。

さらに、漁港は信頼がないと入っていくのがなかなか難しい社会なので、新しく漁業を始めようと思う人がいたとしても、受け入れてもらいにくい現実があるといいます。

田中: 漁師になろうと思っても、なり方がわからない、または、なれたとしても漁港に受けて入れてもらえないなど、“漁業の受け皿”が結果として整っていない状況になってしまっているわけです。そんな“漁業の受け皿”をつくっていくためには、漁師が生業として成立する経済の仕組みともう一つ、そもそも漁業に興味を持つ人が増えるための入り口が必要だと考えています。

「漁業への入り口を増やすために、何ができるだろう」と思案していた田中さんのもとに、まさかのオファーがやってきます。なんと引退される漁師さんから船を一隻譲り受けたのです。目下、この船をどう活用していくかを構想中とのこと。

田中: 魚を獲ること以外での活用法を考えています。例えば、小学生が漁業を体験できるような授業を行うとか、レジャーなのか、まだわかりませんが、チャレンジしていきたい。そのためには、僕たちだけでは限界があると思っていて、いろんな業種・職種の方たちと意見を交わしながら、新たな事業をつくっていけたらいいなと思っています。

そして「いずれは自分たちの店舗を持ちたい」と、田中さんの夢はどんどんと広がります。

田中: 船に乗って、自分たちで獲った魚をそのお店で捌いて、最高においしいタイミングで食べて欲しい。そういう漁業をトータルで体感して、魚一匹のありがたみを感じてもらえたらうれいしいですね。

僕たちのような存在が間に入ることで、さまざまな人たちと一緒になって、漁師を目指す若者たちの受け皿をつくっていく。そんな未来を描いていきたいです。

私たち日本人は、日々当たり前のように魚を食べることができます。でも、それは漁師という存在がいてくれてこそ成り立っている、とてもありがたい状況なのです。しかし、このままいけば、スーパーから日本産の魚がなくなる日も、遠い未来の話ではないかもしれません。

この記事を読んでいるあなたにも、きっとできることがあるはずです。まずは「食一」が卸しているお店で、珍魚を味わいながら、考えてみませんか?

◼︎「食一」の魚が食べられる京都のお店はこちら

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◼︎企業情報

株式会社食一

京都市下京区大宮通高辻下ル高辻大宮町121カンメン2ビル 4F

TEL|075-821-1900 FAX|075-821-1910

URL|http://www.shokuichi.jp/

インタビュアー:赤司 研介(京都市ソーシャルイノベーション研究所 エディター/ライター


    photo:田中淳士(たなかあつし)
    田中淳士(たなかあつし)
    株式会社食一 代表。 アジ・サバ水揚げ日本一の市場、長崎県松浦で120年以上続く仲買業を営む実家にて、小さいころから地元の美味しい魚を食べて育つ。大学3回生の時、第4回Doshisha New Island Contest にて優勝、翌年の一年間を休学し、在学中に「食一」を創業。産地直送の海産物卸として営業を開始し、より現場を知るために九州・四国の漁港をレンタカーで寝泊りしながらひたすら行脚。そこでの情報・経験を通して、2年目に、産地に眠る旨い地魚ブランド「海一流」を立ち上げる。現在では全国の100数十箇所の漁港と取引を行い、飲食店などに産地直送で旨い地魚を卸している。

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