COLUMN
Jun 21.2016

【レポート】第4回 イノベーション・キュレーター塾

今回は㈱フラットエージェンシー会長の吉田光一さんがゲスト。
テーマは「まちの課題が集まる場所に居続ける!」です。
「儲けられるネタ」を探し回るのではなく、「まちの課題が集まる場所に出向き続ける」ことでビジネスを多角化し続けておられます。塾生は、「社会課題を解決するビジネスが,持続可能なビジネスになる」ことを具体的に学ぶことができました。自信を持って社内改革やクライアントへの支援に取り組めるきっかけとなったのではないでしょうか。
それでは、当日のダイジェストをレポートします。

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【レポート】第4回 イノベーション・キュレーター塾

12月12日土曜日、第4回目のイノベーション・キュレーター塾(IC塾)が行われました。今までのゲストスピーカーの事業である、企業のCSR活動のコンサルティングや、若者の就労支援と比べると、不動産業というのは、社会課題との結びつきがいまいちイメージしにくいのではないでしょうか。一体吉田さんはどのような社会課題を発見し、ご自身の事業としてどのような取り組みを行っているのでしょうか。


 

■創業と社会貢献への思い―不動産業者として

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吉田会長

今から約44年前、まだ20代前半の吉田さんはロンドンにいました。高校卒業後、五木寛之さんの著作『さらばモスクワ愚連隊』に憧れて世界放浪の旅をしていた途中でした。そのロンドン滞在中に出会った地元不動産屋”Flat Agency”が、帰国後の創業のモデルになります。
”Flat Agency”は語学力もなく、保証人もいない吉田さんに対して、親切に住まい探しを手伝ってくれました。この出会いと、長期間の海外生活で抱いた「日本に帰って何かしなければ」という思いに動かされ、吉田さんは帰国後単身京都に移住、賃貸住宅の斡旋業を始めました。

資金も経験も何もない状態からの創業でしたが、事務所のオーナーや賃貸住宅の家主の温かい支援に支えられ、なんとか店舗を開業するに至りました。その当時の創業理念は、「地域に貢献し必要とされる企業になる」。現在は分かりやすく「お客様の笑顔が私たちの喜びです」と変えましたが、通底する思いは創業当時から今でも変わりません。

しかし、そのように地域社会への貢献を目指すも、その方法については吉田さん自身答えが見つかっていませんでした。そんな中建設省(現国交省)より、「リノベーションビジョン報告書」が発表されました。その報告書の中の「・・・不動産業はまちづくり産業への脱皮を・・・」という文言が吉田さんを捕らえました。
「不動産業」のあり方に悩んでいた吉田さんは、自身が目指すべき方向性を「まちづくり産業」に見出したのです。

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熱心に質問する塾生

■町家との出会い

地域社会へ貢献するまちづくり産業を…そう志した吉田さんが最初に注目したのは、町家の保全再生事業でした。直接的なきっかけは、定期借家制度という制度の新設です。
それまでの京都には、もともとの法令により貸したくても貸せずに空き家のままであった町屋が多くありました。また、そのような利用されない町家は次々と壊され、ビルや駐車場に姿を変えていました。京都らしい風景が消えていくことへの危機感と、新しい定期借家制度を使って何かできないかという思いを抱えていたころ、吉田さんはある一軒の大きな町家を預かることになりました。ぼろぼろの町家でしたが、すぐに借主が見つかり、なんとその借主が約3000万円もの費用を投じて改装されたのです。
生まれ変わった町家を見て町屋の本当の良さに気付いた吉田さんは、京町家の保全再生事業に本格的に取り組んでいくことになります。管理信託や家賃の先払いによるDIYなど、斬新な手法を利用しつつこれまでに156軒の町家再生に携わりました。

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■地域社会への視座

フラットエージェンシーのまちづくり業は、町家だけにはとどまりません。
京都市住宅審議会という行政事業に参加したことが大きなきっかけになり、地域交流という観点からも様々な活動に取り組みます。例えば、地域交流サロン。これは、不動産屋兼カフェのようなもので、高齢者から「不動産屋は敷居が高くて入りづらい」という声に対応した開放的なコミュニティスペースです。この他にも、北大路の歩道を明るくするプロジェクトや、学生フットサル大会など、事業は多岐にわたりました。

これらより以前に、地域交流という観点から、吉田さんを襲った1つの衝撃的な出来事がありました。ひとりの女子学生が、フラットエージェンシーの管理するマンションの自室で亡くなったのです。
プライベートが重視され過ぎて孤立しがちなマンションの形態に問題があるのでは―以前からマンションに疑問を抱いていた吉田さんは、管理会社として何かしなければと思い、自ら様々な大学や学生から聞き取り調査を開始しました。大学側からの声で見えてきたのは、最近カウンセリングを受ける学生が増えたことや自殺や学費滞納の問題。一方、学生側からは、清潔であれば共同炊事であってもよいという意見が聞かれました。
これらの意見から、大学とも連携し、共同設備の学生用住居・シェアフラットが誕生することになります。

この新しい住まいの形態は、その後、留学生向けのものなども含め、様々な大学に広がっていきました。まさに現在のシェアハウスブームの先駆けとなりました。

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■イノベーション・キュレーターとして

吉田さんは典型的なイノベーション・キュレーターだと、高津塾長は指摘しています。
政策や地域についての情報を拾い上げ、課題を発見し、社会課題の解決という価値を付加して拾った情報を発信していく。また、その中で、地主・家主を初めとして、銀行や大学など多彩なステークホルダーを巻き込んでいることも注目すべき点です。

そのためには、自分で動くこと、また、図々しくいることが必要だと吉田さんは言います。吉田さんの課題に対する感性の鋭さ、多様なステークホルダーを巻き込む力、課題とビジネスを結びつける手法のセンスの良さ、謙虚さを失わない姿勢などに、塾生の方々も感心するばかりでした。

IC塾も前期が残すところあと2回となり、後期のマイプロジェクトの実践に向けて本格的な準備に入りつつあります。そんな中で、イノベーション・キュレーターとして不動産業者という立場から多様な活動を実践している吉田さんの姿は、行動するための大きな指針になったのではないでしょうか。

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レポート:SILKインターン生 池田福美


 

■感想:塾生 矢野裕史さんより

第4回のゲストは、フラットエージェンシーの吉田光一会長でした。フラットエージェンシーさんというと、ちょっと変わったことをしている不動産屋さん、くらいのイメージしかなかったのですが、創業のきっかけから現在に至る取組のお話を聞かせていただいて、引き込まれました。

高津塾長の「吉田会長はまさにイノベーション・キュレーター」という言葉が印象的だったのですが、いろいろな現場の情報を拾い上げ、そこから見えてきた課題を解決するために事業に新たな価値を加え、情報発信しながら人を巻き込んで行く、そしてそのベースには経営理念がしっかりある・・・こうしてビジネスと社会課題の解決がつながっていく過程をお聞きして、なるほどと得心がいきました。

社会課題の解決のために何かしたいと思ったとき、さて何やろうから入ってしまいがちです。それは楽しいのですが、まず自分の思いを振りかえり、現場に目を向けて耳をすませるのが大事だということが、この回の学びだったと思います。

そして、今度家を借りるときは、フラットエージェンシーに行ってみようかな?と思っている自分がいます(笑)


photo:矢野裕史
矢野裕史
京都市役所(防災危機管理室)

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